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【2・面会】
私は…椅子に座って、父が部屋に入って来るのを待っていた。
コンクリート打ちっ放しの…どことなく寒々とした雰囲気の面会室…。
「うぅん…。
それにしても、この部屋って…いつ来ても殺風景ね」
と…
不意に『ガチャリ』という音と共に部屋のドアが開き…
刑務官に付き添われた父が入って来た。
「や、やぁ…」
父が私に薄く笑いかけて来る。
しかし…その頬はすっかり痩せこけ、髪もボサボサ…
おまけに少し髭も伸びていた。
その憔悴しきった父の変わり様に…
私は、胸を痛めた。
でも…ここで、娘の私まで一緒に暗い顔をしてしまっては、駄目だ!
だって今日、私はここに父を元気付ける為にやって来たのだから!
だから、せめて私だけでも明るい表情を見せなければ…。
「お父さん!元気してた?一ヶ月ぶりだね!」
私は、努めて明るい声で言ってみた。
「あ、ああ…元気だよ。よく来てくれたね。美鈴」
私の問いに父は乾いた笑顔でそう答えると、
酷く緩慢な動作で私と向かい合わせに椅子に座った。
ただ、向かい合わせと言っても…
今、私と父の間には一枚の無色透明なアクリルガラスの『壁』が有るのだ。
そう。
ここは、刑務所の面会室。
父と私がこうして面会できるのは、月に一度と決められていた。
「もう!
せっかく会いに来てあげたんだから、もうちょっと嬉しそうな顔してよねっ!
私だっていろいろと忙しいんだからさ!ね!お父さん!」
私は、あえて笑顔で冗談めかして軽口を叩いてみた。
「う、うん。そうだよな…。いつも本当にありがとうな。美鈴」
と、父がガラス越しに申し訳なさそうにうなだれる。
まあ…父のこの憔悴ぶりは、無理も無い話だろう…。
それに…父は先日まで、刑事のみならず検事からも連日の様に執拗な尋問、取り調べを受けていた訳だし…。
ただ、父の憔悴の理由は、決してそれだけじゃ無いと思うけど…。
『あんな事』さえ…
起こらなければ……。
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