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「ははあ、なるほどなるほどなるほどねえ」
加藤はふざけた相槌をうつ。電話の向こうでうーんとうなる。
「しっかし、おまえさ、愛しちゃってんねえ」
「は?」
あまりの軽さに怒りさえこみ上げる。もういい、と吐き捨てて通話を終えようとすると、加藤が焦ったように引き留める。
「いや待て待て待てって。ちゃんと聞けって。だって俺にそんなこと相談してくるほど子供のこと考えてるわけじゃん。それって愛だろ」
「……そうか?」
そうなんだろうか。そうかもしれない。
「そうだよ。それで俺は何を教えたらいいんだ?父親が何をするかってことか?」
「そう……さっき、寝かしつけしてたって言ったよな。寝かしつけってどうするんだ」
「うちの場合は絵本を読んでる。今日は3冊で寝たわ」
絵本。3冊が多いのか少ないのか普通なのかも俺にはぴんとこない。加藤が、音読も漢字も苦手だった加藤が絵本を幼子に読み聞かせているのが意外だった。
「そういう、そういうこと教えてくれ。普段子供とどう過ごしているのか。父親として」
「なーんか、おまえまじめだよな本当にさあ」
あきれたように加藤は言う。
「仕方ないだろ。加藤にしか聞けないんだ。俺には父親がいないから」
「そう言うけどさ。俺だって父さんに絵本なんか読んでもらったことねえしな」
「えっ、そうなのか」
「そうだよ。この間帰省したとき、絵本読み聞かせてたら俺はしなかったけどなあ、ってでかい声で言われたわ。だからなんなんだよって。てめえはしなかったかもしれんが、俺は子どもに絵本読みたいんだわって」
俺は加藤の父親を思い出そうとするが、うまくいかなかった。参観日や運動会に顔を出すのはいつも母親の方だったから。
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