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「だからさ、俺は自分の父親みたいな父親やろうと思ってないんだよなあ。俺はオリジナルお父さんになろうと思ってやってんの。ほかの誰とも違う、俺だけのやり方でやるわけ。俺の父親だって多分そうやってきたはずだ。みんなそれぞれオリジナルお父さん」
加藤は根拠のないことを堂々と言う。
「でも加藤は父親がいるから、父親のこういうとこが嫌だったとか、そういう反面教師的にできる部分があるんじゃないのか」
「確かになあ」
加藤は暢気に頷いた。
しばらく沈黙が落ちた。加藤に何か言ってほしかった。何をかは自分でもわからない。
「なあ、おまえさ、何をそんなにこだわってんの」
やがて、加藤がいつになく静かに言った。
「こだわってる?」
「そう。おまえがそんなに母子家庭にこだわってるの、初めて聞いた」
俺はごくりと唾をのみ込んだ。
本当はいつだってこだわっていたのに。母が言うから。あの数学教師が言うから。いつだって俺は自分の身の上を憂いていた。
「高校のとき」
俺は切り出す。
あの日のことを。途中――数学教師が加藤のことだけをあっさり許したくだりで――加藤のことを責めるような口調になってしまった。
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