父親になる

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話し終えると、「そんなもん気にしなくていい」そう、簡単に、本当に簡単に加藤は言った。 「あいつの言うことは、単純に偏見だ。偏見ってすごいんだよ。おまえもわかるだろ。偏見ってつまり、そうじゃなくちゃならないって思いこんでるってことだ。わかるだろ」 「わかる、ような」 「母子家庭育ちはダメなやつで、両親そろってるやつはダメじゃない。そういう前提で世界を見てるだけだろ。自分の作り上げたストーリーに他人を合わせようとしてるんだ。最低じゃないか」 「そうか……」 「だっておまえはダメじゃないじゃん。俺は知ってる。おまえがダメだったことなんてない」 力強かった。いつもの軽い口調とはかけ離れた、本当に本気の言葉だとわかった。 「そんでおまえは幸いなことにな、父親という存在に偏見がない。父親はこうあるもの、という思い込みがない。それって最高じゃん。おまえもオリジナルお父さんになれる」 なれる。なれるのか。俺も。父親に。 あの愛しい感触を思い出して手のひらを握ったり開いたりする。 「ありがとう、加藤」 「いいって!おすすめの絵本あとでメールする!」 「うん、助かる」 じゃあまた、と別れの言葉を交わして通話を終えた。電話をかける前と同じ不安は少しだけ、ほんの少しだけ残っているけれど、ほとんど晴れ晴れとした気持ちで家に向かって歩き出した。 俺は、父親になれる。
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