0人が本棚に入れています
本棚に追加
話し終えると、「そんなもん気にしなくていい」そう、簡単に、本当に簡単に加藤は言った。
「あいつの言うことは、単純に偏見だ。偏見ってすごいんだよ。おまえもわかるだろ。偏見ってつまり、そうじゃなくちゃならないって思いこんでるってことだ。わかるだろ」
「わかる、ような」
「母子家庭育ちはダメなやつで、両親そろってるやつはダメじゃない。そういう前提で世界を見てるだけだろ。自分の作り上げたストーリーに他人を合わせようとしてるんだ。最低じゃないか」
「そうか……」
「だっておまえはダメじゃないじゃん。俺は知ってる。おまえがダメだったことなんてない」
力強かった。いつもの軽い口調とはかけ離れた、本当に本気の言葉だとわかった。
「そんでおまえは幸いなことにな、父親という存在に偏見がない。父親はこうあるもの、という思い込みがない。それって最高じゃん。おまえもオリジナルお父さんになれる」
なれる。なれるのか。俺も。父親に。
あの愛しい感触を思い出して手のひらを握ったり開いたりする。
「ありがとう、加藤」
「いいって!おすすめの絵本あとでメールする!」
「うん、助かる」
じゃあまた、と別れの言葉を交わして通話を終えた。電話をかける前と同じ不安は少しだけ、ほんの少しだけ残っているけれど、ほとんど晴れ晴れとした気持ちで家に向かって歩き出した。
俺は、父親になれる。
最初のコメントを投稿しよう!