おじいさんとアコーディオン

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おじいさんとアコーディオン

ああ、何てことだ。 いつもは人気が無くて静かで僕のお気に入りの公園なのに、今日はこんなに騒がしいことになるなんて…… もう家に帰りたいが、お花さんに僕の子犬を取られてしまっているので帰るに帰れない…… 「全ては春の陽気のせいじゃ。なかなか賑やかでいいじゃないか」 さっきまでベンチに座って眠っていたおじいさんがいつの間にか起きていて、ガヤガヤ騒がしい子供たちや子犬やお花さんをニコニコ眺めながらそう言った。 そうでしょうか? 僕はそうは思いません。 僕はこういう騒々しいのはあまり好きではないし、この公園にはメリーゴーランドなんて無いし、僕の子犬はみぃたんでは無いし、いっつも鼻水をたらしてるヨシオくんが何故あんなにモテモテなのかも僕にはよく分かりません。 「ほっほっほっ。なるほど。それはきっと、みんな春の陽気に当てられたせいじゃろう。どれ……」 そう言って、おじいさんは横に置いていた大きなカバンから立派なアコーディオンを取り出すと、なんだかとっても楽しそうに陽気な音楽を奏で始めた。 小さな公園に明るく楽しいメロディが流れ出し、ブランコで遊んでいたタケ坊とイネオも、ケンカをしていたミナ子とシズ子も、追いかけっこしていたお花さんと子犬も、みんな動きを止めてじっとその音に耳をすませた。 「この音色はアコーディオン……いや、バンドネオンか?」 ヨシオくんが小さくつぶやく。 まるで陽気なメロディに吸い寄せられるように、みんなは自然とアコーディオンを弾くおじいさんの周りに集まってきた。
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