さよなら

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さよなら

『お~い、ゆかり~ん! どこにいるの~? そろそろ出番だよ~!』 グリーングリーンを7番まで歌い終わった頃、突然そんな声が聞こえてきて、それを聞いたお花さんはハッとした様子で、 「みなさん、とっても名残惜しいのですが、仲間が呼んでるのでわたしはもう行かなくてはなりません……」 とっても残念そうに、そう言った。 「えっ! ゆかりんさん、もう行ってしまわれるのですか? 折角仲良くなれたのにそれは非常に寂しいなぁ……」 「おいヨシオ! オレたちもそろそろ行こうぜ! おまえ班長なんだからそういうとこもっとちゃんと仕切れよ、頼りねえなあ! よし、決めた! もうヨシオなんかに班長は任せておけねえ! これからこの班は、オレが仕切る!」 「タケ坊! その言葉を待ってたんだよ! おれ……おれ一生あんたに付いていくよ!」 「なんか、よく考えたらヨシオくんっていっつも鼻水たらしててダサいわ。もういらないからシズ子、あなたにあげる」 「だから! あたしは本当にヨシオくんのことなんか好きじゃないんだって! あたし……あたしほんとは……イネオが好き!」 ワイワイと騒ぎながら、子どもたちはこの公園を去って行った。 「さあ、わたしたちもそろそろ行かないと。おいで、みぃたん」 そう呼ばれて、僕の子犬は嬉しそうに尻尾を振ってみぃみぃ鳴きながらお花さんのほうへと歩いていく。 あぁ、そうか。 お前てっきり僕の子犬だと思ってたけど、ほんとはやっぱりみぃたんだったんだな。 いいよ、お花さんのところへお帰り。 短い間だったけど、家族になってくれてありがとう。 お花さんと、幸せに暮らすんだよ。 その時、子犬の歩みがピタリと止まり、小首を傾げて少しの間考えると、子犬はクルリと振り向いて僕のほうに戻ってきた。 僕のところへ帰ってきて、子犬は嬉しそうに僕の指をカジカジした。 僕の目には、自然と涙が溢れていた。 すいません、お花さん、この子を僕のところで育てるわけにはいかないでしょうか? この子はあなたのみぃたんなのかもしれませんが、僕にとってももう大切な家族なのです。 この子を必ず、幸せにしますから! 僕はお花さんに、涙ながらにそう言った。 お花さんの顔を見た。お花さんも泣いていた。 「そう、みぃたん。あなたはここに残るのね。分かったわ、この人にたくさん可愛がってもらって……あら?」    ? 「この子……ネコちゃんじゃなくて、ワンちゃんだわ!」    !? 「みぃたんはネコちゃんだから、この子はみぃたんじゃないわ!」    !!! 「あっ! わたしもう行かないと! それでは皆さんごきげんよう、ばいばいきーん!!」 そう言い残すと、お花さんは風のようにこの公園を走り去って行った。
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