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私は、入社式の1か月前から、採用された会社に勤め始めた。受付の方が3月末に退職するので、その交代要員だったのだ。
仕事は、電話交換と来客の接待だった。学校では秘書実務科だったので、適所の配属だと思っていた。
入社式が終わり、何日かして歓迎会があった。夜の集まりで、当然お酒も飲んだ。
家に帰ると、父は怒り心頭だった。
その日が歓迎会だと伝えてあったし、1次会で帰ったので、そんなに遅いとも思わなかった。お酒を飲んだが、私はもう20歳を過ぎている。何をそんなにとがめられなければならないのだ。私は、むくれた顔をしていたのだと思う。
次の日、私の上司である総務部長から呼び出しがあった。
ソファーに勧められて座ると、向かいの部長は困惑した顔をしている。
「先ほど、お父さんから電話があってね、あなたを辞めさせて欲しいとおっしゃるんだ」
この1カ月、仕事の様子を聞いたが、どうも納得がいかない。電話交換の仕事が悪いとは言わないが、他に仕事があるはずだ。それに、入社間もない女子を酒席に夜遅くまで引き留める会社に、娘を預けてはおけない。辞めさせてもらいたいと言ってきたのだそうだ。
私は、心底驚いた。この機会を待っていたのかと思った。辞めさせて、今年こそ、試験を受けさせるつもりなのだ。
私は部長に謝り、辞めるつもりは毛頭ないと弁明した。
私は父に、もう就職した社会人なのだから、口出しは止めてほしいと訴えた。言っているうちに、涙にまみれてきた。
父は、それからついに、公務員試験のことは口に出さなくなった。
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