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転生家族
おい、貴志――と呼ぶ声に思わず反応し、俺は背後を振り返った。そこにはまだ二歳になったばかりの俺の息子、俊太が寝そべっている。まだ言葉もロクにしゃべれない。ましてや、俺のことを呼び捨てにするなんてあり得ない。何よりその声が――。
「どうしたの? 俊太のこと不思議そうに見つめて」妻の香織が不審がる。
「俊太が今、俺のこと呼んだ気がして」
「パパって?」
「いや――」
残業続きで疲れてるのだろうか。そんなはずはない。ハッキリと聞こえた。絶対に空耳なんかじゃない。
俊太はゆっくり立ち上がると、俺のそばまで歩いてきて、「こんなにも素敵な家庭を持って立派じゃないか。俺は誇らしいよ」と、明らかに中年の声色で言った。
やっぱりだ……親父だ!
小学六年生のとき、両親は不慮の事故でこの世を去った。それから俺は母方の祖母に引き取られ、幼少期を過ごすことに。両親がいないことで苦労は多かったが、別に親が不貞を働いて一家を離散させたわけじゃない。だから俺は、それを宿命だと受け止められた。
「俊太として生まれ変われるなんて思ってもみなかったよ」親父は言う。
「おいおい……香織に聞かれるとマズい。もっと小声でしゃべってくれよ」信じがたい展開に飲み込まれるように、幼い息子に耳を寄せ、ひそひそと頼み込む。
これが輪廻転生ってやつなのか? ついさっきまで愛らしさしか感じなかった俊太が、急にイカツク見えてきた。
「そう焦るなよ。これから長い付き合いじゃないか」笑顔はどう見ても無垢な二歳児だ。
「――夢……じゃないよな?」
「つねってやろうか?」
そう言うと俊太は俺の太ももをきつくつねった。
「イテッ!」
「やけに今日は俊太と仲良しじゃない」
何も知らない妻は笑う。おいおい、こいつどうやら俺の死んだ親父らしいんだぜ。訴えるように、香織と俊太へ交互に視線を送る。しかし、香織が気づくはずもない。
「なぁ、輪廻転生って信じる?」
「なに、それ?」
「生まれ変わりだよ。死んであの世に還った霊魂が、この世に生まれ変わってくるってやつ」
「そんなのあるわけないじゃない」
香織は洗濯物をたたみながら、バカにしたように笑い飛ばした。
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