転生家族

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 あの日から俊太――いや、親父との奇妙な生活は続いた。些細なことで香織と喧嘩した次の日には、反省するよう叱られたし、香織の目を盗んでは、将棋を指して遊んだりもした。親父と過ごしたかった幼い頃の欲求が、どんどん満たされていく。俊太との幼児期らしい時間は失われたけど、親父との新鮮な日々は楽しかった。  だが、香織が長女を出産した直後から、親父は現れなくなった。香織は時折こう言う。 「京香が生まれてから、俊太ってどこか幼くなったと思わない?」  そりゃそうだ。俊太の中から親父がいなくなったんだ。幼くなったどころの騒ぎじゃないよ。中年から本来の子供に戻ったんだから。  ようやく俊太との時間が戻り、安心はしたけれど、再び父親を失った気がして物寂しかった。  あれから俊太はすくすくと育ち、無事に大学進学が決まった。時間の流れはあまりにも早い。家庭を守ることに必死で生きてきたここ数年。俊太の中に親父がいたなんてことは、今じゃまるで遠い記憶。自分の中ですっかり風化していた。 「じゃあ、俺、行くね」  東京の大学に進学が決まったため、俊太は家を出て寮生活をすることに。作り上げてきた家族という形も、成長という名のもとに変化していく。誇らしくもあり寂しくもある。 「ちょくちょく連絡しろよ。金に困ったらすぐに相談な。あと、人の道を踏み外すんじゃないぞ」父親らしく息子の肩を叩く。  すると俊太がそばに寄り、俺に耳打ちした。 「今まで世話になったな。お前の家庭に親父の俺がいると、(あるじ)のお前もやり(づら)いだろう。だから、さっさとこの家を出て行くことにしたよ」  忘れもしない親父の声。幼い頃の俊太との記憶が蘇る。息子が巣立つ晴れの日に、思いも寄らない再会。じゃあ、今まで親父はずっと、俊太として俺たちのことを――? 「東京に出て、母さんみたいなベッピンな女を捕まえてくるよ」  俊太は俺の耳元でそう言い残すと、「じゃあ、いってきます!」と青年の声に戻り、家族に手を振った。その背中は立派で、とても大きく感じた。 「俊太がいなくなって寂しくなるなぁ」  照れ隠しに京香の肩を小突(こづ)く。俺を見上げる京香の目がどこか爛々(らんらん)としていて面食らった。  身体を屈伸させながら京香は言う。 「お父ちゃんがいなくなったし、ようやく母さんも伸び伸びできるわぁ」と。
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