続編

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「お嬢様」  私はデボラから声を掛けられて目を覚ます。現在、私は17歳。1度目の人生では18歳で死んでしまったから……あの日までおよそ1年ちょっと、というわけだけど。8歳で2度目のケイトリンの人生を歩んでいることを知って、あの時とは全く違う人生を送っている所為か、1度目の人生の最期が近づいて来ていてもあんまり気にならない。  ーー怖くない。  とは言わないけれど、まぁヴィジェスト殿下の婚約者でも無いし、なんだったら1度目の人生で2回目に恋したドミトラル様と婚約中だし。色々イロイロいろいろあってタータント国に居ないし、シオン帝国で学生生活満喫中だし。そんなわけで、まぁ18歳のあの日を迎えても死なないんじゃないかなって勝手に思ってる。  それはさておき。  デボラから声を掛けられて目を覚まし、首を捻る。朝日の差し込む室内(上学園でも寮生活を送っているけれど、セイスルート家の自室より狭いため太陽が出てから沈むまで、部屋の隅々まで日が差す室内)では無かったからだ。月明かりがカーテンの向こう側から差し込んでいるのは判る。つまり、夜。 「どうしたの」  月明かりから察するに深夜と見るべきで、明日は休日……日が変わっていれば今日だけど……だから別に夜中に起こされても構わない。が、デボラは私が2度目のケイトリンの人生を送っている事を知って、そして色々イロイロ有った今までを鑑みて、何も無ければ私に令嬢生活を送らせるのが自分の使命、と思っているようで。ここ2年程はデボラの言う普通の令嬢っぽい生活を満喫させてもらっている。  要するに。  こんな時刻に私を起こす事が有り得ない。  で、あるならば。 「急ぎ報告したい事が」 「クルス」  私の問いには影であるクルスが。クルス・アレジ・ガリアもデボラに口酸っぱく言われて私を普通の令嬢っぽい生活を送らせようと努力している。だから一応令嬢で婚約者もいる私の室内を影とはいえ夜中に入って来る事など、無かった。定期報告は昼間。 「2年程前の、襲撃事件を覚えていらっしゃいますか」 「襲撃?」  色々イロイロいろいろ有ったが。襲撃事件、且つクルスのこの緊張ぶりから察するに、余程のこと。となれば、あの一件しかない。 「ロズベルさん母娘とジュストが帰国する際に狙われたアレ?」 「はい」 「私が帰国する時は何もなかった事から察するに、伯父様……シオン帝国の魔術師長・シーシオの配下である魔術師を狙ったもの、として考えたわね」 「それ以上、手掛かりが有りませんでした」 「そうね。襲撃者は残らず遺体となったし」 「はい。ーーその一件で」  という事は相当の新事実という事か。寝ている場合じゃない。デボラにお茶を淹れるように命じてベッドから隣にある応接室へ移動した。(寮生活とはいえ、貴族の令息・令嬢を受け入れているので来客用の応接室は各寮部屋にセットされている)  最近……シオン帝国に来てから……私の気に入りとなった柑橘系の香りがするお茶が応接室内に充満する前に、私はクルスに先を促した。 「黒幕を突き止めた?」 「いえ、そこまではいかなかったのですが。お嬢様の伯父にあたられるシーシオ様から密命を帯びまして、其方へ出向く許可を」  伯父様がクルスを借りたい、と? 「いつ、それを言われたの」 「さすがお嬢様。誤魔化せませんね。……お嬢様からは手掛かりが掴めればそれで良いし、無理に深追いするな、とは言われてましたが。やはりあの短時間であれだけの人数の襲撃者を亡きものにした手腕といい、それを隠した情報統制力といい。捨て置くのは危険だと判断して、シーシオ様に報告をしました」  あの当時、という事だろう。その報告については別に構わない。 「シーシオ様からも深追いするな、とは言われたのですが。万が一にも貴方様に危難が及ぶのであれば放置は出来ません。それで、アレジとガリアと共に何度かあの襲撃場所を訪れて、手掛かりが無いか当たりました。全く無くて1年が過ぎた頃。アレジとガリアが、言ったんです。そもそも、何故こんな所で襲撃したのだろう、と」  その発言に、私も成る程と頷いた。  いや、確かに襲撃場所には向いているのだが数の多さから考えれば、もっと襲撃に適した……というのもどうかとは思うが、襲撃に適した場所が有った。あんなタータント国の国境間際じゃない方が良かったはずだ。  何故なら、国境を守っているのはウチ……セイスルート辺境伯家、なのだから。  自画自賛では無いけれど。シオン帝国にも我が家の名前はそれなりに知られている。特に後ろ暗い事が有る者達程、ウチの事は知っているだろう……とは、手紙のやりとりくらいしか交流出来ない伯父様の談。他国にもそのように名を知られている我が家の周辺で、態々襲撃事件を起こすなんて、セイスルート辺境伯家を挑発している、とも言える。……ん? 「え、ウチを挑発するため、ってこと?」 「可能性も有ります。実はガリアとアレジのその発言をシーシオ様に報告したところ、難しい顔をされて。それから半年以上はこの件は暫く待って欲しい、と言われました。とはいえ、お嬢様の命では無いので聞く必要は無いし、一応シーシオ様には報告していただけだったのですが。シーシオ様から、お嬢様の命を守るためにも、と言われ」 「それで定期報告でもクルスもアレジとガリアは何も言わなかったのね」 「決して主人を変えるつもりでは無くて、ですね」  私が報告しなかった事に嘆息すれば、珍しくクルスが慌ててそのような事を言い出したので、私は手を振って口を止めた。 「別にそこを疑っていないわ。だから構わない。寧ろ、伯父様が何故、私の命を守るためだ、と言ったのか。そちらが気になるわね」  襲撃事件の黒幕を追うだけだった時でさえ、そんな事は言わなかったのに。つまり黒幕を追うだけではなく、セイスルート辺境伯家が関わってくるから、なのだろう。それは私だけでなくセイスルート家の皆の命にも関わる事になるのだろうか。
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