番外編

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 ストラール・ポリーナ・エリーザ付きの侍女や護衛として選ばれたベルガ達。彼女達は正確に言えば専属ではない。本来なら専属……つまり固定するものだが、ケイトリンとドミトラルは現在、彼女達がどの子の専属になれるか見極めている所。本来、使用人を雇うのは女主人の仕事である事から、ケイトリンが雇用の有無を決める。それから当主である夫に報告し、当主はその報告を元に採用する。要するに面接は女主人。採用は当主だが、セイレード家はケイトリンが当主であるため、採用決定もケイトリンの独断で構わない。  しかし、ケイトリンはそれを良しとせず、ドミトラルと2人で決める事にしていた。だが、そもそもの話。デボラ以下セイレード家の使用人として雇われた者達は、ケイトリンに敬愛の情を抱いている者達が殆ど押しかけの状態で雇われているのである。なんだったら賃金など要らないから働かせてくれ、と懇願するレベルの者達ばかり。要するに。皆を見極めるも何もなく押し切られたと言っても過言ではなかった。ちなみに、セイスルート辺境伯……つまりケイトリンの父に雇われていたわけなのだが、ケイトリンの父である。話し合いも何も「使用人に慕われているならいいんじゃないのか?」の一言で終わった。  押し切られたけれど、さすが元々はセイスルート辺境伯家に仕えていた者達。侍女や護衛としての腕前は鍛えられた結果が発揮されているので、何の問題もなかった。当主付きの侍女であり侍女長でもあるデボラから見ても何の問題もないようなので、セイレード男爵家の屋敷内は上手く始まったと言ってもいい。  但し、与えられた男爵領内の様子は寧ろ、荒れていた。元々アウドラ男爵領だった所を改めてセイレード男爵領として与えられたのだが、アウドラ男爵が居なくなってから暫くの間、セイスルート辺境伯が代わりに治めていたが。領主が短い期間で変わる事に領民が不安を抱いていて。正直なところ、最初のうちはケイトリンへの不審感が領民の間には芽生えていた。まぁ何もかも最初から上手くいくわけはない。少しずつ少しずつ領民達との信頼関係を築いていくしかなかった。  そんなケイトリンをデボラ・クルスだけでなく。ガリアもアレジも、ベルガ・オシア・オスト・ロシュ・スカーレット・マリー・ベアーナ・ライア・メラニーも、ドミトラルと共に支えた。1年があっという間に過ぎ去り、2年が経過した頃に段々と領民達との距離が縮まり。また、最初について来てくれた者達だけでは屋敷内だけでなく、客人への対応や領民達との交流に際しても回らなくなって来ていたから、新たに使用人を募って来てくれた者達との信頼関係を築き上げる事さえも、デボラ達は支えていた。  そんな者達の事をもちろん、ケイトリンは信頼していた。  だからこそ。我が子達を託せるかどうか、敢えて厳しい目で見極める必要があるのだ。 彼らと我が子達との相性。関わり方。予測行動に突発的な行動の対応……。それ故に敢えて我が子達全員の専属であって、ストラールの専属・ポリーナの専属・エリーザの専属とする相手を見極めている所だった。  そんな中でのアレジとガリアの「温泉見つけた」発言。正確に言えば、施設としての温泉ではなく、なんだったらお風呂という認識すらされていなかった、ただのお湯。温かい泉でさえない。ただのお湯。という状況ではあったが、間違いなく源泉だ。  資金は2人に与えた。  元々影としての実力は高い2人。ケイトリンの案を飲み込んだなら全力で周囲の住人達を説得し、足湯の場を造り上げるだろう。そうなると……もしかしたら最短で半年後くらいには足湯温泉施設が出来るかもしれない。  その頃には末っ子のリーザも1歳を越えているからだいぶ楽になっているだろう。 そこまで考えたケイトリンは、そういった非日常の部分で、我が子達に何かが起きた時、どういった対応をするか見極めるのにいいかもしれない、とふふっと笑みが溢れた。  ケイトリンの目には、ドミトラルと子ども達と使用人達を連れて足湯施設に出かけていき、彼らのてんやわんやな騒ぎになっている未来が見えていたーー。 (了)
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