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自分の気持ちを分かってしまったならもう仕方ない。失恋した。それを認めた。あれほど好きだと思ったけど振り向いてもらえないなら想い続ける意味などない。だったら今更婚約破棄をして欲しいとも言えないし、せめてお互い不干渉でいきましょう。意気込んで登城した際に王妃様が気を利かせて会わせて下さった殿下に私から一方的に告げる事にした。
「殿下。一つだけお願いがございます。私は殿下に干渉致しませんから殿下も私に干渉をなさらないで下さいませ。この婚約は王家と我が辺境伯家の家同士の婚約ですからその使命は果たします。それでいかがですか」
一気に捲し立てた私に殿下は目を瞬かせてから
「それが良いな。そうする。だから私からお前には会いに来ない。お前も来るな」
と声を弾ませて仰った。
そしてさっさと居なくなってしまわれた。これで良い。きっと殿下の事だからこの婚約の意義に気付いておられないだろうけれど私が諭すのも変な話だ。それは国王陛下と王妃殿下の役目だし、何だったら殿下の側近達の役目でもあるのだから。
さぁここからは私も自由にさせてもらいましょう。
振り向いてもらえない殿下のために涙を流す時間が惜しい。私は辺境伯家の令嬢。国と民を守るべきと教育されてきた娘。折角城にいるのだから辺境伯家で出来なかった勉強をさせてもらい、民を守るために私は何をすべきか考える事にしましょう。時間は有限なのだから。
そうして私は王家でさせてもらえる王子妃教育の他にこの国の其々の領地の特色や特産品や土地の弱点などを積極的に教師陣に尋ねていく。合間に王妃殿下とのお茶会にも参加してそれから折角なので近衛騎士団の練習にも参加させてもらう事にした。辺境伯家では男女問わず剣と弓と拳のぶつけ合いを幼い頃から鍛え上げられる。
最初は令嬢が剣なんて振るえるわけが無い、と嗤われていたけれど片手で持つ私に近衛騎士達が目の色を変えて、騎士団長によって私が辺境伯家の令嬢だと紹介された途端に嘲笑していた空気が消え失せて。私は時折混ぜてもらえる事になった。
そんな日々が1年と5ヶ月過ぎた頃。
ーー私は彼のお方にお会いした。
国王陛下お抱えの画家・ドミトラル様に。
ドミトラル様の絵は何度も目にしたことがある。国王陛下の肖像に王妃殿下の肖像。或いは城内の庭園で咲き誇る薔薇や百合など。かと思えば城下へ出かけて王都の民達の生き生きとした生活を描き留めたり風景を描き留めたりと様々で。王子妃教育で教養を深めた私の目にも素晴らしい画家だと映る。
そんな彼のお方にまさかお会いする事が出来るとは思いもよらなかった。
天気が良く普段なら近衛騎士団に混じり剣の訓練を行っていただろうけれど、一ヶ月後に行われる予定の国王陛下の生誕祭に向けて近衛騎士団も忙しいらしく、私の相手はしてもらえない。婚約者として公式に発表されていれば私も生誕祭に婚約者として出席するため忙しいはずだけれど、公式発表されていない私は辺境伯令嬢としての参加はするけれど婚約者として出席しなくていいので、逆にする事が無い。
それで庭園内を散策する事にした。その散策先で一心に絵を描いていらっしゃるドミトラル様にお会いした。遠くからお姿を拝見した事はあったけれどこんな近くでお見かけする事になるなんて。
邪魔をするのも申し訳ないのでそっと通り過ぎようとしたのに、不意にこちらを向いたドミトラル様と視線が合ってしまった。
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