父の陽炎

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 温室で育てられた。そんな自覚を、優弥は確かに持っている。母子家庭で、父の顔は知らない。優弥が生まれる前に、事故で亡くなったと聞かされた。そのせいか母は優弥に甘く、またわずかな危険からも優弥を遠ざけようとしてきた。  中学校から私立の学校に通わされたのも、学区内の公立学校には不良が多いという噂を聞いたことが理由だ。  怪我や病気、暴力。あらゆる危険から守られ、包み込むようにして優弥は育てられた。  もともと父は横浜の片隅にバーを営んでいて、遺されたその店を母が引き継いで生業としている。バーなのかスナックなのか、どうも中途半端な店だと、たまに母は自虐的に笑う。  異常とまでいえる母の過保護ぶりに違和感を覚えたのは、成人してからのことだ。  父の保険金とやらで大学まで進み、二十歳の誕生日。記念に酒を飲もうとした優弥から、母がビールの缶を取り上げたのだ。  やめなさい。頑なにそれだけを繰り返し、理由は聞かせてくれなかった。それから一年以上経つが、隠れて飲むことはあれど、おおっぴらに飲むことはしていない。
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