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1.もうすぐ結婚式なのに!
「た、助けて、助けて、助けて!」
殺人鬼に追われているかの如く、私は必死に橘さんの玄関を叩いた。
開いたドアの向こうに、眠そうな顔をした橘さんが、姿を現す。
「またかよ。朝っぱらから、今度は何?」
寝ているところを起こされて機嫌悪いのだろう、それにしても、イケメンは寝起きでもイケメンなのだなぁと、そのきれいな顔に感動すら覚える。
「おい、人を叩き起こしておいて、何ポケっと突っ立ってんだよ。用件は?」
「あ、あぁ。大変なの、ほら見て!」
鼻の頭を指さすと、彼は私の顔の前にぐっと近づいた。
うわっ。イケメンのドアップ。
毛穴一つない陶器のようなお肌に、ほぉと見とれてしまう。
「昨日、何喰った?」
「え? あ、えっと、昨日はいろいろあって飲みに行って、で酔った勢いもあって、帰りに締めのラーメンを……」
「自業自得」
橘さんは冷たく言って、ドアを閉めようとした。
「ま、待って、待って! ね、どうしよう。結婚式は、一週間後なんだよ? 治してよ。マジカルハンドを持つ、メイクアップアーティストなんでしょ!?」
「無理。そんなでっかいニキビは、さすがに俺でもどうにもならない。ハリウッドで特殊メイクでもしてもらってこい」
「そんなぁ」
鼻の頭がジンジン痛む。よりにもよって、なぜこんなに目立つ場所に。
がっくりうなだれる私に、橘さんは、面倒くさそうに、ため息をついた。
「ちゃんと、食生活改善して、肌を清潔に保って、そしたら一週間もすれば治るから」
「ホントに?」
「多分」
「多分じゃ困る!」
だって、式はもう一週間後。
あの人と、あの子の結婚式は、着実にやってくるんだから。
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