2.彼の隣に並ぶのは

1/1
14人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ

2.彼の隣に並ぶのは

 二ヶ月ほど前、大好きだった人から、結婚式の招待状が届いた――  白いカードには、二匹のかわいいドルフィンがプリントされている。その下に、見慣れた名前が並んでいた。  中山 和樹  名前を見ただけで、胸が苦しくなった。そっと、文字をなぞる。その隣には、もちろん、七瀬朱莉ではなく、会社の後輩の名前が刻まれていた。  花園 咲  名前までかわいらしい。そうか、彼女は中山咲になるのか。  そう思った途端、涙が零れ落ちた。  花のような彼女の笑顔が頭に浮かぶ。ウェディングドレスに身を包んだ花園さんは、どんなに素敵だろう。  彼の隣に並ぶのは、ずっと自分だと思っていた。私が、中山の姓を名乗るのだと思っていた。  その考えが無残にも打ち崩されたのは、去年の4月。新入社員として、初めて彼女がフロアを訪れた時だった。  あの時の、和樹の顔は、今でも鮮明に覚えている。  我を忘れたように、ただ茫然と彼女のことを見つめていた。人が恋に落ちる瞬間を初めて見た。しかも自分の恋人が、ほかの恋に落ちる瞬間を。  思わず漏れたため息は、重たく床に落ちていった。なぜ別れてから一年も経った今になって、再び傷をえぐられなくてはならないのだろう。  そりゃ、同じ部署で、私だけ招待しないわけにはいかなかったのだろうけど。しかも、花園さんは、私たちが付き合っていたことを知らない。  同期同士で付き合い始めた私たちは、周囲から揶揄われるのを嫌って、付き合っていることを伏せていた。   あぁ、招待状に書かれた『ご出席』と『ご欠席』の文字が痛い。  和樹もきっと、私が参加したら気まずいだろう。  一瞬、あえて参加してやろうかとも思ったけれど、そんな勇気があるわけもなく、『ご出席』に二重線を引いた。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!