2人が本棚に入れています
本棚に追加
僕は、馬鹿だからさ。とにかく戦争をやめさせれば、全部が解決すると思ったんだ。まだ開戦して間もない時期で、死んでしまった人も少ない。今なら、引き返す方法もきっとあるはずだと思ったんだよ。
ところが、そんな簡単な問題ではなかった。
戦争がいけない、と叫ぶのは簡単だ。でも、本当は大人達だってそんなことみんなわかってるんだよ。ただ反対意見を叫ぶだけなら、どんな野次馬だってできることだ。大切なのは、戦争をしないために具体的に何をすればいいのか?っていうことをきちんと考えて、提案して、実行することだったんだ。
僕等の国がよその国と戦争をすることになってしまったのは、ある一つの島の領土権を争ったからだったんだ。その島では、たくさんの貴重な鉱石を取ることができた。二つの国が両方揃ってその島の採掘権を争った結果、戦争になってしまったんだね。どちらもその島の鉱石で、莫大な利益をあげていたから……どうしても独り占めしたくなってしまったんだよ。同時に、それがゼロになったら、経済的な損失は計り知れないことになる。
けれど、よくよく考えたらね。
その島を取り合うための戦争っていうのも、とんでもない国の予算を使う行為なんだ。戦争に勝って勝利して、百万Gの利益が出る島を手に入れたとしても。その戦争のせいで、一千万Gの借金ができてしまったら、なんの意味もないことだろう?
そして、いくら島に資源が豊富だからといても、その資源を取り尽くしてしまったら大変なことになる。だから僕達は卒業と同時に、それぞれが“戦争をやめさせる”ために必要な知識を得、あるいは役に立つ仕事をするために散っていったんだ。
僕は、外国と交渉する知識を身につけるため、法律が学べる学校に進学。国際弁護士になって、いろんな場所へと飛んでいったよ。魔法の勉強をせっかくしたのに、魔法が活かせる職業に就かないなんてといろんな人に反対されてしまったけどね。
確かに、魔法学校で勉強した知識はあんまり生かせないかもしれないし、その点は両親に申し訳なかったけどさ。僕等には、もっと大事なことがあったんだ。たった一人の友達との約束を果たすっていう目的がね。
いいかい、君。
ものを壊すのは、一瞬だ。でも築くのにはあまりにも時間がかかる。小さな国の、この世界からすれば本当に狭い空と湖を綺麗にするために、一体どれほどの時間がかかることか。たった数年道を間違えた代償を取り戻すために、僕等は何十年も世界中を駆け回って戦わなければならなくなったんだよ。
だから、人は人を殺してはいけない。命も同じだからだ。殺すのは一瞬でも、生きていく時間はずっとずっと長いものなのだからね。
本当に色々なことがあったよ。僕は第三国に、僕等の国と隣国の間を取り持ってくれるように頼んだり、国際機関のあっちこっちに頭を下げたりしたよ。でも、全然うまくいかなかった。誰もが戦争に巻き込まれるのを嫌がったし、下手に首を突っ込んだら二つの国の両方から恨まれることになるからね。
島の資源を使う量を制限し、かつ二つの国で平等に配分する。その監視と仲裁を、平等な第三国か国際機関が担う。そうしなければ、この戦争を終えることはできない。同時に、二つの国で協力して、少ない資源をさらに増やしていく研究を進められるように取り計らわないといけない。
本当に酷い目に遭ったさ。僕は両方の国から勘違いされて、スパイとして捕まったり、暗殺されかけるなんてこともあったなあ。
酷い目に遭ったのは僕だけじゃなかった。工場の生産方法を変えたり、労働者の労働条件をなんとかしようとしたアニーとオルゴはみんなに嫌われてのけものにされ、仕事を追われたりした。カレンとエリザは政治の世界に入って国の体制を変えようとしたけれど、なかなか支持が集まらずに本当に苦労したみたいだ。
それでも僕等は、何十年も賭けて戦うことにしたんだよ。約束を守るために。もう一度、あの星空の下で六人で集まるためにね。
最初のコメントを投稿しよう!