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休日の朝、天気はとても良かった。朝起きたときから目覚めはいいし、今日は化粧も上手くいった気がする。この前買ったワンピースもおろした。しいて言うなら、頭頂部が少し黒くなってきていることだけど大丈夫。今日の美容院でそれは解消されるから。お気に入りの香水を手首に吹きかけ、ふわりと香る匂いを吸い込んだ。
「うん、やっぱり一番いい匂い」
そう呟くと、ガタン、と音がした。私は音の根源であろう、クローゼットに向かった。南京錠を開け、鎖を解く。ゆっくりドアを開くと暗闇で何かが動いた。
「ああ、大丈夫ですよ。優奈さん。」
湿ったタオルを口に挟みながら小さく呻いている。その視線の先は私ではなく、隣に転がる彼女だった。
「その子はもう動かないんで、心配することないですよ。」
彼女のショートボブはところどころ血で固まり、束になっていた。美容院に行く必要もないからどうでもいいけど。美容院、という思考で思い出した。予約の時間に遅れてしまう。急いで部屋を出てお気に入りのパンプスを履く。何度も履いているが、なんとなく輝いて見えた。
なんとか美容院に時間通りに着き、施術してもらっているとスマホの通知が鳴った。
「ごめんなさい、通知切り忘れてた。」
「大丈夫だよ。それより、その後好きな人とはどうなの?」
スマホ画面には裕太郎くんから『お話ししたいことがあります』の表示。思わず笑みが零れてしまったところを見られた。
「さては、いいことあった?」
答えようと口を開いたとき、ふと思い出した。
今日、クローゼットに鎖と南京錠、掛けたっけ?
遠くからサイレンの音が聞こえる。外が騒がしい。入口のベルが鳴り、見慣れた紺色の制服の人と鏡越しに目が合った。
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