タンポポ畑にバラは咲かない

5/5
前へ
/5ページ
次へ
休日の朝、天気はとても良かった。朝起きたときから目覚めはいいし、今日は化粧も上手くいった気がする。この前買ったワンピースもおろした。しいて言うなら、頭頂部が少し黒くなってきていることだけど大丈夫。今日の美容院でそれは解消されるから。お気に入りの香水を手首に吹きかけ、ふわりと香る匂いを吸い込んだ。 「うん、やっぱり一番いい匂い」 そう呟くと、ガタン、と音がした。私は音の根源であろう、クローゼットに向かった。南京錠を開け、鎖を解く。ゆっくりドアを開くと暗闇で何かが動いた。 「ああ、大丈夫ですよ。優奈さん。」 湿ったタオルを口に挟みながら小さく呻いている。その視線の先は私ではなく、隣に転がる彼女だった。 「その子はもう動かないんで、心配することないですよ。」 彼女のショートボブはところどころ血で固まり、束になっていた。美容院に行く必要もないからどうでもいいけど。美容院、という思考で思い出した。予約の時間に遅れてしまう。急いで部屋を出てお気に入りのパンプスを履く。何度も履いているが、なんとなく輝いて見えた。 なんとか美容院に時間通りに着き、施術してもらっているとスマホの通知が鳴った。 「ごめんなさい、通知切り忘れてた。」 「大丈夫だよ。それより、その後好きな人とはどうなの?」 スマホ画面には裕太郎くんから『お話ししたいことがあります』の表示。思わず笑みが零れてしまったところを見られた。 「さては、いいことあった?」 答えようと口を開いたとき、ふと思い出した。 今日、クローゼットに鎖と南京錠、掛けたっけ? 遠くからサイレンの音が聞こえる。外が騒がしい。入口のベルが鳴り、見慣れた紺色の制服の人と鏡越しに目が合った。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加