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あの日から、大学内で恵那を介して何度か裕太郎くんと会うことがあった。授業後や合間の空き時間、昼食を一緒に取ることも増えた。
「彩子先輩は、彼氏作らないんですか?」
恵那がサンドイッチを齧りながら私に質問を投げかけると、裕太郎くんの視線がこちらに向いたのがわかった。
「作らないんじゃなくて出来ないだけだよ。」
「いやいや、それは恵那のセリフですよ。」
「ちょっと!どういう意味!」
裕太郎くんの言葉にすかさず恵那が突っ込んだ。その掛け合いがなんだか面白かった。もちろん裕太郎くん以外の男の子と話す機会も度々あった。でも、裕太郎くんのことが特別だと自覚するまで時間はかからなかった。彼の話し相手の目をしっかり見るところが好きだと思った。きちんと受け答えをするところ、「ありがとう」「いただきます」「ごちそうさま」を言うところが好きだった。しているようでやらない人が多い当たり前を、当たり前にするところが。
週末、予約の時間ぴったりに美容院に着いた。入口のドアを開けるとカラン、とベルが鳴り、スタッフの視線を浴びる。私の顔を見るといつもの席に案内された。しばらくして、いつもの担当さんが来て他愛のない話をしながら施術に入る。
「最近何か良かったことでもあった?」
「え?」
塗られているカラー剤の臭いが鼻奥を突く。何も気にしていない風を装い、鏡越しにキョトンとした顔で目を合わせた。
「彩子ちゃん、楽しそうだから」
「本当ですか?確かに最近楽しいかも。」
「お!もしかして彼氏出来た?」
「彼氏じゃないです~。私が好きなだけで…」
「そうなの?でも彩子ちゃんならその人が彼氏になるのも時間の問題だろうね。」
「もう、おだてないでくださいよ。」
スマホ画面にはまた学部のグループラインが活発に動く通知がきていたがスルーした。優奈さんを心配する旨のメッセージは、もうなかった。
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