主成分『恋』

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「誰がお父さんだ。せめて、お母さんにして。息子よ、肩を揉んでくれないか」 「いいですよ」 「いいの?!」 冗談で言ったつもりだったのに、 松原くんは後ろに移動して両手を肩添えた。 「いやいや、冗談だから。パワハラになっちゃう」 「俺、うまいですよ? それにパワハラじゃないです。俺がしたいことですから」 にしても、いや、マズイでしょう。 社内でも若い子達に人気の松原くんを私みたいな冴えない人の肩を揉ませるのは。 誰かに知られたら非難囂々だ。 そして誰かにしてもらうものも久々で何だか恥ずかしさがこみ上げてくる。 でも、うん、甘い誘惑に断れなかった。 誰もいないから、うん。ごめん。 「えっ、えー……あ、じゃあ、少しだけ、お願いシマス」 「ご指名ありがとうございます」 ふふ、と二人で笑い合うと、マッサージタイムが始まった。 その間、他愛もない話をした。 松原くんは営業部で、私は内勤の事務員だ。 普段は、仕事で関わることのみ会話をするが、 私が遅くまで残っていると必ず話しかけてくれる。 といっても、お疲れ様です、頑張ってください、だのと一言二言ぐらい。 だから今日みたいなことは初めてでちょっと新鮮だった。
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