彼の真意

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彼の真意

「ごめん突然。でも本気なんだ。養子縁組をして欲しい」 「本気……って?」  実はほんの少しだけ期待していた。彼と結婚すること。残り少ない日々でもいい。彼の妻として過ごせるなら、それは私の生涯で輝く記憶になる。  なのになぜ、養子……!? 「あの、養子ってどういうことなの? 実はね、奥さんになら、なりたいって、思ってたんだけど……」 「ありがとう。実は僕もそう思っていたよ。でも、それだと僕の夢が叶えられない。自分の先がもう長く無いことぐらいわかる、頼む、最後の願いだ。時間が無いんだ」 「時間が無いって、そんな……」  思いがけず、互いにプロポーズをしたのだが、妻ではなく子供になれと言う。急に言われても何がなんだかわからない。けど、時間も無い。  考えをまとめるため、わたしは彼の家に向かった。そこには真新しいワープロとコピー機の他に、彼が書きためた原稿がたくさんあった。このままでは、彼が亡くなった後は処分されてしまうだろう。  本棚には相続についての本もあった。しおりを挟んでいるところを読むと、彼の真意をつかみ取ることが出来た。  そして私は決心した。  翌日、彼の養女になることに決めたことを告げると、涙を流して喜んでくれた。 「ありがとう。これで、全てを君に託せる」  役所に届けを出してから1か月後「お父さん」は眠るようにこの世を去った。
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