おくりもの

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夏に向かう空気は、青い葉の匂いを混ぜて香る。 時折ごおっと吹く風は、自転車を漕ぐ身体に気持ち良く過ぎていった。景色の一つ、ふとすれ違う人影に俺は一瞬、違和感を覚える。 「おい!急に止まるなよ」 「なぁ、今の子見たか?」 急ブレーキを掛けた友人のそれに、俺も仕方なく動きをなぞる。指を差された後方を確認すると、その姿はまだそれほど遠くない所にあった。 白色のワンピースに、水色のカーディガンを羽織って歩く後ろ姿。 「ちらっとしか見えなかったけど、めっちゃ可愛かったんだよ!やばい、声掛けてこようかな」 「声掛けてどうするんだよ…」 「どうって、そのくらい分かれよ!とうとう俺の彼女いない歴に終止符が打たれる時が…!」 声の方に視線を戻すと彼は両手の拳を突き上げ、天の光を受けるように目を細めている。 「いや、無理だろ」 「なんで!」 「無理なもんは無理」 「…お前は俺と違ってモテるからそんなことが言えるんだよ」 少しの沈黙を置いて「やっぱ追い掛けてくるわ」と自転車ごと体を回転させようとしたので俺はその身で動きを制する。 「だから、無理なんだって。分かんなかったか?あの子は」 伝えようとした言葉はしかし、今日一番に音を立てて吹いた風に拐われていった。
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