おくりもの

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※※ 「おはようございます」 「おはよう。(かなで)」 笑顔で迎え入れてくれた大槻優里(おおつきゆうり)は「どうぞ」と私を部屋へ促す。 視線の先の小さなテーブルには、私の到着を待っていたかのように大きな紺色の箱が置かれていた。斜めに掛けられた赤いリボンをほどいて、包みを傷めないようそっと蓋を開ける。 緩衝材に守られていたのは白色のリネンのワンピースに、淡い水色のカーディガン。 触れるとワンピースの生地からはしっとりとした軟らかさが感じられる。カーディガンはボタンが一つ一つ違うもので、それはまるで宝飾品のように美しかった。 今年で、最後。 これで、最後。 薄桃色のフレアのスカート。 紺色のジーンズ。 アイボリーのニットのセーター。 深緑色と茶色のチェック柄のアンゴラのマフラー。 深紅のベロアのワンピース。 一年ごとに成長する娘の為に箱に収められた贈り(プレゼント)。 私はシャツのボタンを外し、ジーンズを脱ぐ。 ワンピースに体を通し、最後にカーディガンを羽織った。 『誕生日おめでとう』 思い出されるのは少し低くてくぐもった、ぶっきらぼうな口調。 でも、私は知っている。それがどれだけ優しい声かを。 身を包むそれらはゆるやかに収束する光のようで、目を瞑れば容易く会えてしまいそうな気持ちにさせる。 一穂(かずほ)さん。 愛しい人を呼ぶように、私は心の中で囁いた。 「よく似合ってる」 玄関先で見送る優里さんは、迎えの時とは違う色の笑みを私に向ける。 その言葉に会釈で返したのは、何かが零れ落ちないようにする為かもしれない。私はその優しい眼差しにそっと背を向けた。
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