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季節は少しだけ進み、紅葉が本格的に色付き始める頃。私は一つの思いを胸に、大槻家を訪ねた。
優里さんは以前より笑わなくなったけれど、静かに暮らしているようだった。
「いらっしゃい、奏」
「いきなり、すみません。その、お話ししたい事があって…」
小さな仏壇に一礼してお線香をあげてから、優里さんに向き直る。
「優里さん。一穂さんの贈り物って、ご存知でしたか?」
優里さんは一瞬虚を衝かれたように表情を硬くして、それからゆっくりと頷く。
「うん。亡くなる少し前に、教えてくれた」
優里さんは私を手招きして、クローゼットの前に立たせる。そこには、色とりどりの箱が並べられていた。
「全部で十八個だよ」
優里さんが微笑む。一穂ちゃん、頑張ったよね。
十八。その数の理由は、一穂さんの生い立ちにあった。両親と折り合いが悪かった一穂さんが、一人で生きていく為に家を出た。それが十八の年だった。
「十八歳までは子供だから誕生日プレゼントがいるだろうって、あの人の考えだったみたい」
優里さんはもう一度微笑むと、じわりと表情に翳りを見せた。
「…一個も、渡せなかった」
絞り出すような小さな声に、胸が張り裂けそうになる。
「中は、見ましたか?」
優里さんは首を振る。
「ううん、これはあの子への贈り物だから。私が勝手に開けるのものね」
その言葉に、表情に。
言おうとしていた言葉は逃げ道を探してしまう。
しかし少しの間を置いて、私は決意を引き戻した。
「優里さん、その贈り物を、私に貸してくれませんか」
「どういう意味…?」
優里さんと私の視線は、ゆっくりと交わった。
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