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12.東京(終)
外の景色が田園風景からだんだん背の高い建物へと変わりはじめた。
長旅で疲れたのか、隣で祐樹が眠っている。
文句を言いながらでも、ちゃんと着いてきてくれてありがとう。
気持ち良さそうな寝顔に私は小声で言った。気のせいか祐樹が微笑んだように見えた。
疲れた体に電車揺れが心地よい。私もだんだん眠くなってきた……。
「姉ちゃん、姉ちゃんってば!」
まぶたを開くと祐樹がいた。私、いつの間にか寝ちゃったんだ。
「もうすぐ東京駅に着くで」
まぶたを擦りながら窓の外を見ると夕焼けに染まった空にたくさんの高層ビルがそびえている。車内アナウンスがまもなく東京駅に到着することを告げている。
──東京に着いたんだ
電車は徐々に速度を落としながらホームに滑り込んだ。
ブレーキのわずかな衝撃のあと、もう何度も聴き慣れたドアチャイムとともにドアが開いた。
東京駅はさすが中央駅であるだけあって老若男女さまざまな人がホームを行き交っている。私と祐樹は人混みに揉まれながら地下鉄の乗り換え口まで移動した。
父が入院する病院はここからさらに地下鉄で数駅行ったところにある。
地下鉄の切符を買って、病院の最寄り駅まで乗車した。駅に着くと病院はすぐそこだ。地下鉄の駅を出ると茶色がかった大きな建物が見えた。あれがお父さんのいる病院だ。私たちはその建物に入った。
病室の前まで来ると、急に緊張して来た。なんでだろ。たった二年前までは一緒に住んでいたはずなのに……。そんな私の気持ちを察してか、祐樹はなにも言わず手を握ってくれた。
私はその手を握り返した。
「祐樹、準備はいい?」
無言でうなずく祐樹を見て、覚悟を決めた。
「いくで!」
私は思いっきりドアを開けた。
「お父さん、来たで!」
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