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3.青春18きっぷ
「まぁまぁ、そう言わんと。東京着いたら好きなとこ連れていったるから」
私は祐樹の肩に手をまわしてなだめるように優しくトントンと叩いた。
「それもおかしいって思っててん。東京やったら新大阪で降りて新幹線やろ? せやのになんでずっと新快速なん?」
「ああ、それね。大阪〜東京間の往復の新幹線代、しかも二人分は私の貯金からはちょっと厳しくて……。で、格安で行ける方法を調べたら、これを使う方法を見つけてん」
私はカバンから緑色をした長方形の切符を取り出した。
「なに、これ? 切符?」
「そう! 青春18きっぷって言って、これ一枚でJR在来線全線一日乗り放題になるんやって。五枚綴りで一万二千五十円。一枚あたり二千四百十円や。余った分は金券ショップにでも売ればいいし、超お得やろ!」
「一万二千円払えるなら高速バスで行けるやん。なんでわざわざ電車なんよ」
弟の鋭いツッコミに私はあっけらかんと答えた。
「そら決まってるやん。バスやったら祐樹を上手いこと騙されへんやろ」
祐樹は、すべてを諦めたような表情が抜け落ちた顔で頭を抱えた。
「それで、この先どうするん?」
「よくぞ訊いてくれました!」
私は切符をカバンにしまって、代わりに冊子タイプの地図を広げた。近畿、東海、関東とページごとに別れているやつだ。そのページごとにペンでルートを書き込んである。今日のために何度も予習をしてきたのだ。
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