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7.トイレ休憩(前編)
祐樹も座れて満足しているようで黙ってスマホゲームに興じている。さて、私も読書の続きといこうか。
ページが進むごとに、電車も距離を稼いでいく。小説を半分ほど読み終わった頃、豊橋駅に着いた。
「祐樹、降りるで」
「…………」
隣を見ると祐樹は眠っていた。電車に揺られて眠くなってしまったのだろう。電車の揺れはなぜか眠気を誘う。私も通学中の車内でよく寝落ちしてしまう。
祐樹の肩を揺さぶって起こした。祐樹は目を覚ますと、うーん、と思いっきり伸びをした。
「祐樹、着いたよ」
「また乗り換え?」
眠気まなこを擦りながら祐樹が言った。
「うん。でも次の電車まで時間あるから、トイレ休憩や」
私は弟をつれてホームに降り立った。エスカレーターで改札階にあがる。
さすが愛知県東部の中心都市なだけある。コンコースには、スーツを着たサラリーマンや派手な格好をした若者たちがせわしなく歩いている。
その人混みをすり抜けてトイレにたどり着いた。
「それじゃあ、あとで」
私と祐樹は入口で別れた。
トイレを済まして、外に出ると祐樹の姿を探した。だが見当たらない。あたりを見回してもそれらしき姿は見えない。
まだ終わってないんだろうか……。
トイレの入口近くで私はしばらく待つことにした。一分……二分……。なかなか出てこない弟に私は嫌な考えが頭をよぎった。
まさか、帰っちゃたとか⁉︎
もしそうなら大変だ。私はいても立ってもいられなくなって、コンコースを流れる人の川に飛び込んだ。人混みをかき分けて弟の姿を探す。
「ゆうきー! 祐樹、どこー!」
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