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8.トイレ休憩(後編)
すると、見覚えのある背格好の男の子が目の前を歩いているのを見つけた。
「祐樹!」
肩に手をかけるとその男の子が振り返った。
「僕ですか?」
それはまったく知らない男の子だった。
謝罪の言葉を言うと男の子は行ってしまった。
私の中で不安の芽がどんどんと大きくなる。もしかしてもう電車に乗ってしまったのかもしれない。今度はホームを探そうと踵をかえしたとき、聞き慣れた声が私を呼んだ。
「姉ちゃん? なにしてんの」
声の方を見るとそこには祐樹が立っていた。
「祐樹! どこ行ってたん!」
「トイレ早く終わったから、待ち時間にコンビニで飲み物買っててん」
祐樹はレジ袋を掲げて言った。
「あんた、急に居れへんようになるから、帰ったかおもて心配したやろ」
「ごめんて。それにあの約束がある限り、帰るなんて言わへんから安心して」
それから、クソ親父に会うのは嫌やけどな、と小声で付け足した。
「うん、わかってる。無理してでも着いてきてくれてお姉ちゃん、嬉しいわ」
祐樹は照れ臭そうに俯いたかと思うとレジ袋から紙パックのジュースを取り出し、私に差し出した。
「これ、姉ちゃんの分」
「ありがとう」
私たちがホームにおりると、電車はもう来ていた。電車は三両編成で乗客もまばらだ。この電車で静岡は浜松を目指す。
電車は豊橋駅を定刻通りに出発した。しばらく走ると静岡県に入った。浜名湖を何回も渡って進む。予定ではここから三時間は静岡横断に費やさなければならない。想像以上に静岡は横に広い。
「祐樹、浜名湖やで。今日だけで湖、二回目やな」
「浜名湖か。せっかく静岡に来たのなら、鰻食いたいな」
「……勘弁して」
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