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1.大阪発
「姉ちゃん、話と違うやんか!」
祐樹は、私を睨みつけて言った。
「だってホンマのこと言うたら、あんたついてけえへんやろ?」
「当たり前やろ! 梅田に買い物に行くって言うからついて来たのに! 誰が好き好んで、東京まであんなクソ親父に会いにいかなあかんねん!」
「ほら、やっぱり。だから、わざわざ別の理由を考えてん! お姉ちゃん、策士やろ?」
私は弟にサムズアップしてみせた。それが逆鱗に触れてしまったのか私のお腹に容赦ないパンチが入った。
お腹が痛い……。そして周りの視線も痛い……。
ここはJR京都線、米原行き新快速電車の車内だ。朝ラッシュ真っ只中の車内はとても混雑している。ただでさえむさ苦し車内でケンカする私たちきょうだいに、他の乗客たちの非難の視線が刺さる。
「祐樹、とりあえず今は電車の中やし一時休戦にしようや」
「次の京都駅で引き返すで」
「わかったから、大人しくしといて」
京都駅に着くと混雑も幾分かマシになり、座席に座ることができた。
「姉ちゃん、なに座ってるん? 引き返すんやろ?」
「はぇ? そんなこと言うたっけ?」
とぼける私の腕を祐樹が引っ張った。こんなところで引き返してたまるか。体に力を入れて対抗する。中学生になんか負けるもんか、こちとら花の女子高生じゃ!
すると祐樹は諦めたのか力を緩めた。
「じゃあ、オレ一人で帰る。姉ちゃんは好きにしぃ」
祐樹は私の腕を離すと出口の方に体を向けた。今度は私が腕を掴む番だ。
「ちょ、ちょっと待って。まぁ、一旦座ろ? せっかく席も空いたことやし。な?」
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