ヨシミママ

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ヨシミママ

 レイジさんが運転する黒のセダンに、亮二さんと後部座席に乗る。窓は、フロントガラス以外は遮光仕様なのか暗く、外は見えない。不安に俯く僕の肩を、亮二さんはずっと抱いていてくれた。元の僕なら、彼が怖いので身を引いただろう。けれど、色んなことが目まぐるしく起こって混乱している今は、彼を怖いとは思うけれど……それよりも、温かい大きな掌に心地良ささえ感じて、大人しく体重を預けていた。  しばらくすると、大きな総合病院に着き、外科の入院病棟に案内された。  個室のドアをノックする。返事を待たずに、亮二さんはドアを開けた。 「ヨシミ、具合はどうだ?」 「あら、来てくれ――アキラ?!」 「……ママ?」  ベッドの上に起き上がり、サイドテーブルに付属のテレビを見ていたママは、僕を見ると笑顔を強張らせた。 「亮二! あんた、どういうつもり? あたし、退院するまで待ってって言ったじゃない!」  左腕を三角巾で吊ったママは、右手でシーツを掴むと、ガバと頭まで被ってしまった。 「ママ、どうして……?」 「もう、いいじゃねぇか。これから、暮らしが変わるんだ。いい機会だから、ちゃんと話してやれよ」 「そんなの……分かってるけど……」  ママの声は弱々しい。 「俺は出てるからよ、きちんとママの話、聞いて来い」  亮二さんは、僕の肩を軽く叩くと、そのまま病室を出て行った。  テレビから流れる笑い声だけが、奇妙に響く。ママは、まだシーツの中に居る。僕の足は、石になったように動かない。 「……アキラ、いるの」 「うん……」  どちらの声も、小さく震えている。 「心配させたわね」 「うん。さ、刺されたって……大丈夫なの」 「ええ、もう今は」 「良かった……刺されたのは、よくないけど」  ゴソゴソとシーツは蠢いて、右手がテレビを消した。シン……と静けさが際立った。 「アキラ、こっちへ来て」  コクリ、と乾いた喉が引き攣ったように上下し、僕は両手を一度、ギュッと握っては開いた。それから、全力で右足を持ち上げる。ややつんのめりながら一歩を踏み出すと、あとは足が付いてきた。ベッドをぐるりと回って、サイドテーブルの横まで進む。 「テーブルの後ろに椅子があるでしょ」  壁とサイドテーブルの隙間に、パイプ椅子が折り畳まれている。引き出して、そこに腰掛ける。ギィ、と軋んだ不快な音が鳴る。 「ママ。どうしたの、何があったの?」  シーツの中から、溜め息が聞こえた。 「アキラ、無理だと思うけど――驚かないでね」  モゾモゾとシーツが蠢いて、中から長い茶髪を1つにまとめたママが現れ、真っ直ぐに僕を見詰めた。 「え――」
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