ナオヤ

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ナオヤ

 ベッドサイドのアラームが鳴る。僕の身体を越えて、逞しい腕がスイッチを切った。 「も……時間?」  まだ眠い。悪い魔法使いに、瞼の神経だけが麻痺させられたみたいだ。 「ああ。6時50分ぴったり」 「ぴったりぃ……? まだ10分あるじゃん……」  このホテルを出て、朝食を取りながら目的地まで、交代でレンタカーを運転する。今夜、約束の時間までに着くには、ベッドを7時に出なくてはならない。昨夜、夕食のあと、地図アプリで逆算済みだった。 「そ。あと10分は、寝起きの悪いお前を起こす時間」 「あ……んー、や、擽ったぃ……」  微睡みを手放したくない僕の項に、温かい唇が触れる。 「だめ……んー、ナオヤぁ……」  そのまま唇は、耳を軽く食む。ピクンと身体が疼く。快感が溶け出して、まだ眠い頭から思考を奪う。 「馬鹿……ヘンな気になる……」 「なってもいいけど?」  甘い刺激は首筋に移動する。 「ひどっ……10分で済ます気?」 「あと7分。起きないと、本当に始めちまうぞ」  はだけた肩を温もりが包む。下半身に触れてこないのは、一応自重しているつもりなんだろうか。 「ゆーべ……たっぷりしただろぉ……?」 「分かってねぇな、アキラ。俺は、1日中でもお前を抱ける」  真面目な声がコワイよ。 「もー、馬鹿……」  身体を捻ると、笑顔で俺を見下ろしているナオヤを見詰めて、微笑む。彼の頰に両手を伸ばすと、スッと顔が近づいてきて――僕の掌は、彼の後頭部を抱くことになった。 「んっ……ふ……」  柔らかな唇に塞がれる。蜂蜜みたいにまったり濃厚な愛情に蕩かされて、全身が熱く覚醒する。 「あと……何分?」  止まらない。朝から欲しくなってしまった。 「大丈夫。まだ、6時35分。余裕で出来る」 「……確信犯……」  クスクスと笑って、僕は彼の背中を抱き締めた。 -*-*-*-  優秀なタイムキーパーのナオヤは、朝から満足な時間を提供しながらも、結局は計算通り、僕達が7時にベッドを出ることを成功させた。そして、気怠い僕とは反対に、活き活きとしてハンドルを握っている。 「どんだけ体力あるの……」  呆れて呟くも、伸びてきた掌に頭を撫でられた。 「眠ってていいよ」  彼の低い声が心地良い。いつの間にか、また瞼にかけられた魔法が復活していた。
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