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変わった日常
「もう! 洗濯物一緒にしないでって言ってるのに! 抜け羽根が入るって何回言ったら判んの⁈」
「うぐっ、す、すまん。つい、アジトでの癖で」
「アジトの癖を一般家庭に持ち込まないでっ!」
何度目かの文句に、彼はシュンと存在しない肩を落とす。
自称アタシの「父」。
父、とは言ったものの、その見た目は到底ヒトには見えない。
彼は等身大のカラス……ていうか「、怪人」という存在───らしい。
「葵ちゃん葵ちゃん。今日の夕飯なに食べたい?」
そう言いながら振り返って笑う姿を、どう表現しよう。
全身は正に真っ黒。頭のてっぺんからつま先にいたるまで、なにもかも烏の濡れ羽色だ。白い部分をあげるとするなら、首と黒目からほんの少し覗いている白目くらい。
でもそれだけじゃない。
整然と並んだ大きな風切り羽根が腕から生えている。背に翼があるんじゃなくて腕そのものが翼になっていて、その先端が手になっていた。空も翔べるというその羽根は、当人曰く「プレスリーのようにカッコいいだろう!」らしいが、私には時代遅れのアイドルのようでめちゃくちゃダサい。
胸板は広く大きく膨らんでいて、言ってみれば超・鳩胸だった。腰から伸びた太腿は太く、指は四本。尖った爪は何度言っても切ってくれず、事あるごとにフローリングを傷付けてくれる。
ここまで言えば分かると思うけど、当然、顔立ちも霊長類のそれじゃあない。もう、ほとんどカラスと言っていい。特におかしいのはその長いクチバシで、フツーのマスクすら装着不可能ときたもんだ。
「アンタが作ってないやつ」
「おっ、お父さんに向かって、そんな言い方はダメだぞう。メッ!」
「こちとら花のJKだぞ。んな叱り方があるか」
この自称・父がウチに来たのは、アタシのお母さんが死んだ三回忌の夜だった。兄以外身寄りのない母だったが、幸い、立派な一軒家と保険金を残して母はこの世を去った。
アタシが中学を卒業する一カ月前だった。
その日は雨の酷い日で、出先から急いで帰ってる途中に事故に遭った、と警察から電話を貰った。………轢き逃げだったらしい。
犯人はまだ─── 捕まっていない。
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