お父さんは突然に

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お父さんは突然に

 その日は学校を休んで、墓参りから帰ってきた直後だった。  けたたましく鳴るインターホンに急かされて出てみれば、背の高い、全身真っ黒のマントを着込んだ、ペストマスク(っていうんだっけ?)みたいなのを被った男が、立っていると思い込んでいた。 「初めまして! 俺がっ……君のお父さんだよッ!」  玄関先でその男……いや男かどうかすらも判別できないソイツは、感極まったようにそう叫んだ。  私は意味不明だ。状況がよく理解できない。で、まず最初に頭によぎったのは、「ハロウィンでもないのにコイツこの姿でここまで歩いてきたのか?」という、メチャどうでもいい疑問だった。  ヤベエ奴だと思ったアタシはすかさず玄関を閉めようとした。が、それより早く、そのカラスはアタシの足に縋って身も世もなく泣き喚いた。 「ずっと探してたんだ、ああっやっと会えた! むすめよぉ〜‼︎  こんな姿してるけど、俺は君のお父さんなんだ!  お父さんっ! なんだよ‼︎ うわあぁぁ〜!」  そう言って玄関で男泣きを見せつけてくれた。締め出したかったけど本人が邪魔でドアは閉められないし、恥も外聞もなく大声で叫ぶもんから近所の目は気になるしで、私はとにかく移動させようと焦って言ってしまった。 「は、話は中で聞くから早く入って! うるさい‼︎」  白目のない目から流れる涙を見て、私はそこでやっと気付いたのだ。  ──そのクチバシの付いたペストマスクのようなものが、マスクでないことに。  現実とも思えぬ風体に言葉を失うアタシを置いて、そのカラスは微笑みながら立ち上がり、いそいそと玄関のドアを閉めてくれた。  泣いたカラスがもう笑った、なんて比喩を比喩じゃなく実際に目の当たりにする日が来ようとは、マジで思わなかった。
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