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怪人のお仕事
別のある日、アタシはふと疑問に思ったことを聞いてみた。
「そういや稼ぎってどうなってんの?」
「稼ぎ?」
「組織に所属してるんでしょ? いくらかウチに入れてくれるのが普通じゃん?」
父親かどうか、ってのはマジで疑ってはいるところだけれど。でもお金ってあって困るもんじゃない。後見人の叔父さんが色々動いてくれたとはいえ、母の遺した生命保険は叔父さんが管理し、生活費は仕送りなのだ。成人すれば全額アタシのものにはなる予定だけど、今はまだ未成年。叔父さんにこの怪人のことは言ってないし、でも食費は二倍だし、ときどき欲しいモノだってあるし、あるなら是非に欲しい。
「歩合制だからなぁ」
「歩合制」
「最近お父さん、負けがこんでるから」
「ギャンブルか」
「ちょっと前まで治療に専念してたし、戦闘訓練もサボりがちだし、今は幼稚園バスを襲う気力もないよ」
「なぜに幼稚園バスを狙う」
「幹部までは昇り詰めたけど、そっからなかなか出世出来ないんだよね。だってほら、細菌兵器を装備する改造手術をしちゃったら、もう葵ちゃんと一緒に生活できなくなるでしょ?」
「そりゃあ、うん。…………うん?」
「今や時代は情報操作と細菌攻撃だから。どっかの組織みたいに『うっかり漏らしちゃった☆』じゃ、シャレにならないし、武器としても使えない。計画はもっと用意周到にしないと『選定』が間に合わないからね。備えなくして進化なし。古代から受け継いだこの世界を統べるのは、我々の組織しか有り得ないのに」
あ、あれ? なんだか雲行きがおかしい。言ってる内容が怖いというか。熱に浮かされたように滔々と語り出す怪人は、選挙中の政治家のように堂々と、とどまることを知らない。
「やっぱり百年かそこらの新しい組織はツメが甘い。ウチの組織みたく、鍛冶屋から始まった由緒あるギルドじゃないと。仕事が荒くたくなっちゃう」
彼は朗々と語る。アタシはそれが逆に怖かった。
そう。なんだか……強烈な違和感を感じた。今まで見てきた彼と、どこか違う雰囲気。
「あ、さっきの葵ちゃんの質問だけどね? 幼稚園バスは怪人の基本なんだよ。なんてったって子どもは『使い途』が多いから。
たとえば──」
「ッ、ス、ストップ‼︎」
アタシは両手を突き出して彼の言葉を遮った。
落ち着け、おちつけ。
少し早くなった鼓動を悟られないよう……いつも通りを意識して。
「──ぁっ、す、好きな食べ物って、あるっ?」
唐突な話題転換。不自然だっただろうか? でもこれ以上彼が話す内容を知りたくなくって、アタシは無理くりに彼が喜びそうな日常を、話題を探した。
「たまには……アタシが作るよ! 約束の一カ月まで、あとちょっとじゃん? 最終日くらいさ、アタシが腕によりをかけて作ったご馳走、食べたいでしょっ⁉︎」
なんだよ「食べたいでしょ」って。どんな自信なんだよ。断らないって知ってて訊いてるも同然の言い方じゃん。
「あ、葵ちゃんの手作りっ⁈ ももももも勿論! でも、えっ? い、いいの⁉︎ ホントに⁈ ウソじゃないっ⁇」
「う、うん。いいよ。だから、食べたいの、言って? その日はさ、二人でゆっくり食べよう!」
パアアアと音がしそうなほどに喜ぶ「怪人カラス男」に、目論見通り話題が変わったことがどれだけアタシを安堵させていたか──自分ですら気付いていなかった。
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「な、なんで、こんなことに‼︎」
仕送られたお金を下ろそうと入った銀行。
約束したご馳走の為に買うぞ、とスーパーの隣に併設された大きめの銀行で──アタシは不幸にも事件に巻き込まれたのだった。
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