36人が本棚に入れています
本棚に追加
/48ページ
Nicole
読み書きは最低限できればそれでいい。生きていくうえで必要となる知識など、ほんの一握りでしかないのだから。頭でっかちで理屈っぽい女は嫌われるぞ。主人がいない家を切り盛りし、子どもを育て、ときおり戻ってくる夫を優しく癒し、労わるだけで充分だ。手持無沙汰なときがあるのなら針を持って服でも縫えばよい。主人が留守にしているからと勝手に書斎のものには手を出すな、活字を追うな、目が汚れてしまう……
おまえはオレの大事な小鳥だ。オレがいない場所でオレの知らないことをあるがままに吸収し、外の世界に飛び出すなんてことがないように、この心地よい鳥籠を作ったんだ。もちろんそれは子どもたちにも、特に娘のニコールにも言えることさ。
あの子はオレに似たのか外への関心が強すぎる。あれが男だったら一緒に連れて行けるが……
「パパ? ママを置いて今度はどこへ行ってしまうの? ねえ!」
ニコール、お前は何も心配しないでいいのよ、と儚げに母が笑う。
お父さまは悪者をやっつけて、この国の英雄になるのですから。
最初のコメントを投稿しよう!