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八月三十日。
他の地方ではまだ夏休みと聞いた事がある。だけれどもこの村は、北の位置にある為に冬だと大雪が降るのだ。だから夏休みは早めに切り上げて冬休みに補う形だと母親に教わった。
引っ越して来たばかりの敏は、そんな事など知らない為に夏休みの短さに驚いていた。歩にとっては当たり前の事が、敏にとっては驚くばかりだ。だからか、いつもと違う敏の一面が見れて嬉しかった。
『子供は普通、そういうもんやろ』
そう敏とは違い、歩は一般論を並べたつもりだった。
だけれども、黙り込む敏。そのまま窓ガラスのふちに肘を置く。自分自身の顔を手で押さえて窓ガラスのふちに体重をかけた。
軽い気持ちで口走った歩も、敏の隣に立つ。教室には誰も居ない。
山の方から風が流れて髪が揺れる。それにグラウンド場で叫ぶ子供達の声がよく響く。
歩は、敏がグラウンド場より遠くの山を見ているかのように見えた。その年齢の割には少し大人びた姿が格好いいと思えた。
敏みたいに歩も背伸びをしたいのだ。小学六年であれば年上に見られたい気持ちが湧いてくる。敏もそうなんだろう、と勝手な憶測を立てた歩。
「なぁ。最近、誰かに見られている感じがするんだよ」
敏が喋り出すと、歩はグラウンド場から敏へと見つめる。苦そうな顔をする敏。
「き、気のせいなんじゃない?」
歩は昔から怖い話が苦手だった。だから敏が悪い冗談を言っているのかと思えた。
毒舌の上に、そういう類が苦手なの分かっているクセに・・・・・・。
敏の不自然な顔色は演出だと思い、わざと怖がるフリを見せなかった。そもそも誰かに見られているって、なんだよ。
「そう。でもな、ココ最近ずっと外から俺の部屋をじーっと見つめてくるんだ。目が合うと居なくなるんだけどさ」
一向に怖い話を辞める事のない敏。益々、加速化される話を聞いていると頭の中に浮かび上がってしまう。
誰かも知らない人に自分の部屋をじーっと見つめるという衝撃な話だ。もう止めてくれ、と言いたくなるけれど決して敏は止めてはくれない。
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