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「俺、行くよ」
「春貴……私は……っ」
二白の手が、愛しい者の細腕を軋むほどの力で強く掴む。
離したくない。離してはならない。離してしまえば、もう二度とこの手には戻ってこないのだ。
それでも言葉を止めて、うつむいたまま二白はその体を離した。その腕の中からぬくもりがするりと消えてゆくのを、ただ歯を食いしばって耐えることしかできなかった。
花木の香りをかき消すようにして、春貴が地面を駆けてゆく。
その音に、奥宮へと足を踏み入れていた天が振り返って、驚愕の表情を浮かべる。
だがそれはすぐに笑顔へと変わった。
その胸に勢いよく飛びこんで、春貴もまたその青年へと笑っていた。
赤い口づけが降ってくる中、闇に包まれようともそこにもう恐怖はなかった。
これが、本当の"永遠"なのだと、春貴は青年の腕の中でそっと涙を流した。
――あぁ、これで、もう二度と……
奥宮の扉がゆっくりと閉まってゆく。
どこかでまだ残っているのだろうか。
風に乗って飛んできた花木の花びらが、そんな二人を送り出すように空へと静かに舞い上がった。
ー完ー
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