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二白の言っていた通り、数日後には春貴のもとに皇子の参拝護衛の任が届けられた。おかげさまで奉納弓の報酬もきちんと受け取れ、それに加えて今回の報酬もあり、春貴は久しぶりに豪勢な食事ができると意気揚々になっていた。
護衛といっても、普段から専属の護衛人に周りを固められている皇子のそばにつくわけではなく、そのさらに周りを守るおまけのようなものだ。
だがそんなおまけであっても、報酬はいつもの倍以上出されている。
はたして専属の護衛人はいくらもらっているのか。そんな下世話な話を周りに振るわけにもいかず、春貴は黙って護衛の任に就くのだった。
「こんなご時世に、わざわざ参拝なんてしなけりゃいいのにな」
たまたま隣になった男のつぶやきに、春貴は同意するように小さく頷いていた。
国の外にはどこにも属さない神所が点々と存在している。そこへは様々な国から定期的に参拝者が訪れており、その頻度によってご利益の大きさが変わると言われている。
なかには、『神所は国々の裏政治と繋がっており、そこで優位になるために参拝が必要』という噂まであるほどだ。国政が不安定な中でも参拝を欠かさないところを見ると、その噂も案外馬鹿にできないのかもしれない。
皇子が定期的に参拝している神所は、国を出て三刻ほど山道を進んだ先にある。大きめな神所には他の国からも参拝者が多く集まるが、それでも今回の護衛の規模は過剰とも思えた。
神所内ではいかなる血であろうと流すことは許されない。戦中の国であろうとも、一歩神所に入ってしまえば手を出すことはできないのだ。
ならばこの過剰な護衛は神所の外を警戒してのものなのだろう。
そこまで考えて、春貴は二白の言葉を思い出した。
「奥宮が開いたことを、力のない皇子のせいだと言う者もいる」
つまり、警戒しているのは身内なのだ。
先が見えないほどの行列は、ようやく山道の半分ほどにさしかかっていた。今のところ危険な状況もなく、のんびりとした歩みで進んでいる。
十数名を隔てた先にある皇子の牛車も、まるで慣れた大路を進むようにしっかりとした歩みを保っている。
山道といっても参拝者のお布施によって整えられた道だ。大路と比べても、歩きやすさに変わりはないのかもしれない。
緩やかな坂道は香る花こそないが、散歩をするのにはうってつけだった。晴天の空もあって、隣の男につられるように春貴も小さく伸びをする。
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