パパ・ドント・プリーチ【後ろの理解者・ep11】

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「おーい紫音(しね)〜!ホムセン行くぞおー!支度しなー」  6月21日・日曜日。  踊る声で娘を誘うのは、四之宮(しのみや)紫門(しもん)。地元のみならず、全国的にも知らぬ者のない巨大大学病院の外科医長だ。この世界では若手の46歳ながら、次代の院長にと誰もが認める存在。研究者としても注目され、彼の論文はメディアでもたびたび取り上げられている。  代々医師の裕福な家に生まれ、努力で才能を開花させ、美しい妻と娘に恵まれたアルティメットリア充。ダンディなイケメンなのに軽薄で人懐っこい性格も手伝い、男女問わず慕う者は多い。そんな死角なしの完璧人間にアキレス腱があるとすれば…それこそが、娘の紫音だ。  何しろこの紫門、パーフェクトなまでに清々しい親バカ、むしろ親馬鹿野郎なのであった。  この高スペックだ。今でも近づく女性は多いのだが、危うい時は妻ではなく娘の顔を思い出して踏み止まる。一人娘の紫音のためなら、名声も命もクシャッと丸めて医療廃棄物と一緒に捨て去るのも容易なほどに、娘を溺愛しているのだ。 「ほら紫音〜、早く来ないとパパ、置いてっちゃうぞ〜」 「誰がいつ、連れてけなんて言ったのよ!もう…私の周りは面倒な人ばかり…」  日曜大工が趣味の紫門。紫音もホームセンター(主に刃物コーナー)が好きなことを知っているので、自室にこもりがちな紫音を誘い出すための、これ以上ない口実だ。
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