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結論を言うとラブレターだった。
"一目惚れをして、見ているうちにどんどんと好きになった。できれば付き合ってほしい。"
要約するとそういった内容が、シンプルなレターセットに書かれていた。
きれいな文字や丁寧な文章から、どうしても女子を連想してしまうけれど、ここはあくまで男子校だ。……男子校、なのだけれど。差出人のところに書かれていた近藤綾という名前も、実は女なんですみたいな結論が考えられなくもないようなもので、本当にややこしい。いったいここはどこだ。
現時点では男であることが想像し難い彼は、同級生ではあるけれど違うクラスらしい。よかったじゃん顔もかわいい子だよ、と優斗は言っていたけれど、いくら名前も顔も文字や文章までもかわいくても、男であることはかわらない。
「………ひとめぼれ、」
ってなんだっけ? なんて現実逃避なことを考えながら、隣で丸くなってる猫の頭を撫でる。
手にしていた手紙が頭上へ消えた。
「あ、」
「……………ラブレター?」
紙パックのジュースを片手に俺から取り上げた手紙に目を通したらしい岩本先輩と目が合った。何というか絶対おもしろがってる。というか人の手紙を勝手に読むってどうなの。
「さぁ?」
「近藤綾って、……あぁ、一年の」
「知ってるんですか? というかそれりょうって読むんだ」
「この前風紀でいろいろと」
「え、」
かわいいんじゃなかったの、と、いかつい不良を思い浮かべて顔を引き攣らせていると先輩に笑われた。
「被害者のほうな」
ストーカー被害だそうだ。ほんとにこの学園の治安は一体どうなっているのだ。
「で、どうすんの?」
「は? ………えー…」
そんな嫌そうな顔すんなよと苦笑される。他人の恋愛に口出しする気はないけれど、自分が男と付き合っている姿はいまだに想像ができない。
「そこそこかわいかったぞ?」
「いやでも、………先輩はそういうの平気なんですか?」
「ん? ……あぁ、俺は男女どっちも平気。」
……この学校ではやっぱりこれが普通なのだろうか。優斗はノーマルだと言っていたけれど、翔ちゃんはどうなんだろう。……会わない3年間で俺の知らないところが予想以上に増えているのかも、と不安になっていると、隣で先輩がコンビニで買ったらしいサンドイッチを食べながら続けた。
「ちなみにタチな」
「は?」
「つっこむ方」
「……ッ」
むせた。盛大にむせた。
あんたの性事情なんか知らねぇよ! と言ってやりたかったけれど咳き込んでかなわなかったので空になった紙パックを投げつけておいた。
先輩はお前ほんとにおもしろいのなー、なんて笑っていて、なんていうかやっぱり、やなやつ だ。
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