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荻野凜くん──彼は高校からの入学ではあったけれど、斉藤くんとは幼馴染らしく時々うちのクラスにも来ることがあった。
彼が来る度に、少しだけざわつく教室。
僕はそわそわしながら彼を見る視線のひとつ。
目で追うたびに、彼のことを意識する気持ちはどんどんと強くなっていった。
集まる視線に居心地悪そうに泳ぐ目や、斉藤くんや田中くんに向ける笑顔。
好奇心に負けて突然話しかけた人に対しても、驚いて戸惑う様子を見せながらも、嫌な顔はせずに受け答えをするところ。
入学式で出会ったあの日から、……好きだなって思ってしまうまでに、そんなに時間はかからなかった。
どうにかなるものじゃないとわかっていながらも、彼の靴箱に手紙を入れた。5月の下旬。
少しずつ、でも確かに大きくなる彼の人気に、親衛隊ができる前に行動をしてしまえとずるい気持ちが少しだけあった。
親衛隊ができてしまったら、この気持ちは多分、伝えることすら難しくなる。
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「近藤、綾さん……?」
手紙を出したその日に教室に現れた彼に、言わずもがな心臓が跳ねた。
斉藤くんと言葉をかわし、こちらに向けられる視線。目が合ったことに頭が真っ白になっていると、声をかけられて視線を上げる。
手紙なんてもしかしたら無視されるかもしれないって思っていたから、それだけでも十分幸せだった。
移動した食堂で荻野くんが難しい顔をして言葉を選んでいる様子を見て、やっぱり好きだなと改めて思った。告白の結果も自ずとわかったけれど、これだけしてもらえれば本当にもう十分だ。
彼の言葉を待たずにそのことを伝えると、申し訳なさそうに下がる眉。
居た堪れなくなって続けて感謝を伝えると、荻野くんも少しだけ微笑んでくれた。
「俺も、ラブレター? とか、はじめてもらったから。──びっくりしたけど、嬉しかった、かも。ありがとう」
首を傾げて一言ひとこと選びながら言う彼の言葉は、気をきかせてくれただけかもしれない。──だけど、行動してみて本当に良かったと思わせてくれた。
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