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「──岩本せんぱい?」
背後に立つその人を見上げながら声をかける。と、一拍おいて頭にごすっと衝撃が走った。──先輩が手に提げているビニール袋で小突いたのだ。
きっとペットボトルかなにかが入っているに違いない。けっこういたい。
「痛いんすけど」
「もう来んなっつったろうが」
「……先輩も来てるじゃないですか」
「お前が来てないかどうかを見に来たんだよ」
わざとらしくため息を吐きながら隣に座るのは、岩本雅臣先輩──この学園の風紀委員長様、だ。呼び方はみんながそう呼んでいるのを真似しただけ。
一委員会の委員長に様だなんておかしな話だけれど、この学園ではおかしくもなんともない、らしい。要するに彼がそれほど人気者ということだ。
「別に見にこなくても」
「お前、あの日俺に言わせたこと覚えてる?」
「覚えてますけど……」
「……まさか毎日来てたわけじゃないよな?」
返事をしないでいるとあからさまにため息をつかれた。
まさか毎日来ていた俺はなんとなく居心地が悪い。
猫に出会ったあの日から、昼休みと放課後はここに来ることが俺の日課となっていた。
(……来るなって、いわれてもな)
──通い始めて数日目の昼休み、風紀の巡視中だと言う先輩に見つかり、ものすごく面倒くさそうな表情で何をしてるのか問われ、ここはあまり人が寄り付かずトラブルが起こりやすいからもう立ち入るなと注意を受けた。
トラブルって? と聞いた俺が強姦だとか親衛隊とやらによる制裁だとかの存在を知ったのはその時だ。
あれここ男子校……? という考えが全く浮かばなかったわけではないけれど、同性愛が主流だということは同室者を含めた友人から説明は受けていたからなんとなく流すことができた。
……なんというか、自分が思っていたよりも遥かに、この学園はディープらしい。
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