26人が本棚に入れています
本棚に追加
side:iwamoto
◆◆◆◆◆◆◆
何事も新しく始まる時には多少なりともトラブルが付き纏うものだ。
新年度、新学期、新入生……とにかく新しいものづくしの4月──心躍るやつらも多いのかもしれないが、俺にとってはただただ面倒の一言だった。
「──はぁ」
強姦未遂が、なぜ高校で、しかも男子校で起こる。頭を抱え現場に適当な人材を送りつつ、自分を含めた風紀委員全体で学園内の巡視を行う。
風紀の巡視は、何かが起こらない限りは基本的に放課後に校内とその周辺・寮へのルートのみだ。しかし何かが起きた場合は、念のためにその都度だだっ広い学園内全体を見回る。
新学期が始まり、どこか浮き足立ってる学園内に、その雰囲気に誘発されるように起こるトラブルの数々。
圧倒的に業務量が多い生徒会とは違い、各種委員長は通常3年が行うものである。しかし無責任な先輩に本来その人が行うべき立場を押し付けられ、待っていたのはトラブルがおこる度に頭を抱える日々。
(あーもう、ほんとうぜぇ)
半ばうんざりしながら行う見回り。
現在は使用されていない講堂裏の、小さな林。いつもはひと気のないその場所に誰かがいるのを見つけてため息を吐く。
わざと足音をたてて近づくと、大げさにびくりと肩を浮かせ振り返る2匹──いや、1人と1匹がいた。
「……何してんの」
同じ表情をしてこちらを見る、真っ黒な猫と──おそらく新入生に声をかける。見かけたことのない顔に、真新しい制服。
親衛隊がいてもおかしくないような容姿のわりに見覚えがないということは、高校からの外部生かもしれない。
陽に透ける茶色い髪に、深みのあるブラウンの瞳。整ってはいるがどこかあどけなく柔らかい雰囲気も残した顔。そこそこ身長はあるも細身の身体。
また面倒なのが入ってきたとうんざりしつつ、とりあえずここにいる理由を確認する。
こんな所にこんなのが1人でいると、トラブルを起こして下さいといっているようなものだ。
「──えっと……猫が」
「は?」
「こいつ、に会いに?」
見ず知らずの人に突然話しかけられたことに単純に驚いて戸惑っている様子のそいつに、呆れるというか苛つくというか、でも外部生なら仕方ないと言い聞かせてとりあえず注意をする。
トラブルって? ときょとんとするそいつにありのままを教えてやるも、わかってるんだかわかってないんだかよくわからない表情をされた。
とりあえず名前を確認して自分が風紀委員長であることを伝えると、そいつ──荻野 凜は、やっと納得したような顔をした。
「わかったらさっさと帰れ。もう来んなよ」
「はーい」
確実にわかってないような返事をしながら猫の頭を撫でる表情は、今までのやりとりの中では見せたことがない程穏やかで──俺は再び頭を抱えるのだった。
最初のコメントを投稿しよう!