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「は!? 凜ちゃん委員長と飯食ってんの?!」  あれから数日。岩本先輩の宣言通り、昼休みは毎日先輩と過ごしていた。……半ば強制的に。  口は悪いし態度はでかいし暴力的ではあるけれど、基本的にはいい先輩だと思う。たぶん。  自室のキッチンで夕食の準備をしていると、同室の田中優斗(たなかゆうと)に「そういや猫ちゃんは元気?」と聞かれたので、最近起こった出来事を話すと想像以上に吃驚された。 「なんかなりゆきで? ……やっぱまずい?」  この学園のことで色々アドバイスをくれる優斗に、以前「いろいろ面倒だから親衛隊もちっぽい美形には近づかないのがベター」だと教えられたことがある。  理由を聞けば、この学園はビジュアルがメインなところがあるからね、と苦笑された。理解はしかねたけれど、深くは考えずに受け入れることにしたのは防衛本能みたいなものだ。きっと。俺のキャパはもう割と限界に近い。 「え? ……あぁ、風紀には親衛隊とかないから大丈夫だよ~」  そもそも問題を起こせば先輩がキレるだけだから、ファンも何かしたりしないはずだよ。とふにゃりと笑った優斗も確か風紀委員だ。  背格好は俺と同じくらいではあるけれど、柔らかそうなくせっ毛や表情から、どこかふわふわとした印象を受ける。  なんというか性格等も含め、全体的に犬っぽい。 「それにしても委員長と凜ちゃんがねぇ……予想よりも早く大物とフラグたてちゃって……」 「は?」 「なんでもにゃい」  急ににっこりと笑う優斗に多少の胡散臭さを感じながらも、出来上がった料理を並べた。  一人分を作るのは逆に面倒だから、夕食だけは優斗に付き合ってもらって自炊してる。なんでもおいしいおいしいと食べる優斗は将来きっと良い旦那さんになる。女子って大抵好きだよな、こういうタイプ。明るくて優しいやつ。 「うまそー!」 「どーも。お茶でいい?」 「うん。ありがと」  冷凍保存もできるからと多めに作ったハンバーグは我ながら上手くできた。明日の弁当もこれでいいやと考えていると、優斗がきらきらした目で「話は戻るけど」と言った。  やっぱりなんだか犬っぽい。 「どこに?」 「いいんちょー」 「あぁ、なんだっけ、昼飯?」  一緒に食う? と聞くと「でも猫ちゃんがー……」と肩をおとしている。アレルギー自体そんなにひどくはないけれど、あまりにも近づくとくしゃみがとまらなくなるらしい。かわいそうに。 「どんな感じ?」 「なにが?」 「委員長と。どんな話すんのかなーって」  俺、委員会一緒だけど滅多に話すことないんだよね、と笑う優斗の顔をみてなんとなく思い返す。  どんな話……? 「いや別に。……普通の?」 「ふつう?」 「次の授業の話とか、他愛もない…」 「ほー」  そういえば音楽の趣味は合ったな、なんて思い返していると、今日した会話がよみがえってきた。 「……新歓? って、なにすんの?」  新入生歓迎レクリエーション。  1週間後に迫ったそれが面倒だとぼやいていた先輩に、それは一体何をするのかと聞こうとしたら時間になったのだ。 「新歓? うーん、ゲームみたいなもん?」  よく知らないけど、全学年参加してなんかやるみたいだよ。というかこの前のSHRで色々決めてたじゃん──そう言う優斗は、「ま、俺は風紀の仕事があるから参加しないんだけどね」と笑った。 (確かになんか面倒くさそう……)  そんなことを考えながら、俺は無関心に味噌汁をすすった。
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