始まり

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始まり

 にゃー 「……なに、おまえやっときたの」  かさり、と音がした繁みを見やると一匹の黒猫がいた。金色の瞳が新緑を映す5月の中旬。 「今日はこないのかと思ってもうほとんど食べたんだけど……あ、こら毛がつく」  足や腰に擦り寄ってくる猫の頭を撫でながら、先ほどまで自分が食べていた弁当から与えられそうなものを探した。 「んー……放課後ちゃんと持ってくるから、今はこれだけな」  にゃー  先月の初め──入学式後の休日に、膨大な敷地を誇るこの学園内をふらりと散歩している時に発見した、もう使われてない様子の講堂。その裏にある小さな林で出会ったのが、この黒猫だった。  もう仔猫ではないけれど、まだ大人にもなりきれていない小さな猫に懐かれ、寮へとつれて帰るのを散々悩んだ末に思いとどまったのも、もう一ヶ月以上前の話だ。  ──もう一ヶ月半は経ったんだ。  これまでの日々を思い起こして、俺は小さくため息を吐いた。
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