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「今日は入学してから何人目だっけな…」
そんなことを考えながら俺は体育館裏に向かっていた。
俺、篠山章介は小さい頃から他人に見た目を褒められることが多く、幼稚園の頃から現在に至るまでに女に告白された回数は数え切れない。
高校に入学して1ヶ月とちょっとが経ったが、すでに記憶に無いくらいには告白を受けた。
もちろん俺好みの芸能人「星波杏奈」似の子は一人もおらず、全て断ってきた。
どうせ今日もまあそこそこの可愛さの女の子が登場するんだろう。
そう考えながら体育館の角を曲がった。
「あっ、篠山くん…来てくれてありがとう」
少し低めだが可愛らしさのある、しかし小さくて自信のなさそうな声が数歩先から聞こえた。
そこにはお世辞にも可愛いとは言えないような女子生徒が立っていた。
髪の毛は黒髪セミロングで清潔感はあるが、前髪が長く重く両目を覆い隠しており、眼鏡もかけているようだがそれすらもよく見えない。
髪の毛の隙間からかろうじて見える肌には、口の横にあるホクロが目立たなくなる程のニキビがポツポツとできていた。
長いスカートの裾からはたくましい足がのぞいている。
彼女はずっとオドオドした様子でこちらをうかがっていた。
「うん、手紙読んだから…」
さすがに初めてのタイプで俺も少し動揺してしまった。
「…私、1年C組の岡野玲央奈っていいます。篠山くん私のことは知らないと思うけど、いつも朝同じ電車に乗ってるんだ。それでひと目見たときからカッコいいなって。…その、見た目だけじゃなくて電車で篠山くんが友達と話してるのを見てたら、すごく優しくて友達思いだなっていうのを知ってもっと素敵だなって思って」
「うん」
今朝の電車でこんなヤツいたっけな、と思い返しながら相槌を打った。
「だから…その…私篠山くんのことが好きです!付き合ってくれませんか…?」
きた。俺は少し間をあけるかのように息を吸い、用意していた言葉を呼気に乗せた。
「ごめん、俺好きな子いるから」
もちろん嘘だ。めんどくさいからいつもこう答えている。
「…そっか…どんな子か聞いてもいい?」
「肌がキレイで、目が大きくて、スタイルが良くて、笑顔が可愛い、謙虚で努力家な子かな」
俺は好きな子、「星波杏奈」の好きな所をスラスラと答えた。
「ありがとう…わかった…じゃあこれからは友達って事でもいいかな?」
「うん、それは大丈夫。板尾さん…だっけ?」
「岡野だよ」
「ごめん、岡野さん」
正直今後関わることも無いだろうと名前を聞き流していた事がバレてしまった。
「それじゃ…今日は来てくれてありがとう」
そう言って彼女は体育館の角を曲っていった。
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