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0301 因果
オイ
あ? なんだお前?
オマエガ…ワルインダ
何言ってんだ?
オマエ…クソニンゲン
なんだその口のきき方は?
シネバ…イインダ
こらっぁー! いい加減にしとけよ! やんのかっ!
コロシテ…ヤル
お前そりゃまるで… ぐぎゃあああああああ!
アア……
ザアアアアアア
ダメダナ
―――――――――――――――――
「表示内容でよろしければ確認ボタンを押してください」
「支払方法を選択してください」
「レシートを発行しますか」
「ご利用ありがとうございました」
――私はセルフレジがあまり好きではありません。なんだか寂しい。やはりレジの人と言葉を交わして、目を合わせてお釣りを貰ったりする方がいい。それに……
「試されている気がするのが嫌です」
思わず声に出してしまいまいました。……そう、まるで良心の呵責を試されているような……こんなことを思うのは、自分の中に心疚しい部分があるためなのではないかと、いつも私自身の中に存在する善悪の判断を測る心の働きを確かめながら生きている。
――そう……私の仕事は毎日その連続の繰り返しです。
「あの、荷物の受け取りを……」
「申し込み券よろしいですか?」
「はい」
「少しお待ちください」
私は待ちます。そして本人確認証は用意してあります。
「こちらにフルネームでサインの方お願いします」
〈長内 早枝〉
これが硬質書写検定準一級のペン字です。
「はい、ありがとうございました」
そんなことはレジの方には興味のないことでした。
でも今そんなことは露ほども気にしません。その理由は、このネットショッピングで購入した『ネモフ』ちゃん。ついに私のもとへ召喚されてくれました。ああ……この『モフモフ』に早くさわりたーい。
「お昼休みに少し開けてみようかな」
朝の澄み切った空気が、時折冬の凍てつく風に変わるのを感じる。足元の行潦が今にも凍りそうに寒空を映していた。
年末の大寒波が残していった残雪が道の辺にまだ少し残っているのを避けながら通勤路を進む。
「ううう、寒いです。寒いのは苦手です」
職員通用口から中に入った直後に感じられる、寒風からの逃避感を一息ほども感ずる間もなく、私は先輩の栗原さんに呼ばれた。
「長内さん、すぐ出られる?」
「はっ!はいっ、すぐ出られます!」
私は荷物をすぐさまロッカーに押し込み、出動態勢を整えた。
「近くですか?」
「ええ、そんなに遠くない。ごめんね、48時間以内の訪問には少し急ぐ必要があって」
「はい、行きましょう」
目的の訪問先は、まだ新しい様子の3階建てアパートの2階のお宅だった。栗原先輩はゆっくりとチャイムを鳴らした。しばらく間をおいて2回、3回……。
「応答、ありませんね。留守なんでしょうか……」
「そうかもしれないけど……、どうなのかな。まだ朝なんだし」
「そうですね。通告者は?」
「このちょうど下の階の主婦の方からで……、ほぼほぼ間違いないと思う」
「そうなんですか……」
「仕方ない、また出直そうか」
鉄筋コンクリート製の綺麗なアパートは、吹き抜ける冷たい風を少し鳴らしながら、西側の階段へ抜けて行く。
その風の抜けた西側の階段へ向かった私たちと、擦れ違いに下から上がってきた女性は、私たちの訪問先の住人だった。
「あのっ!すみません! 増田さんでいらっしゃいますか?」
「そうですけど……、あんた誰よ」
「日野児童相談所から来ました、児童福祉司の長内です」
私の仕事は、子どもたちの幸せを守る、児童福祉司であります。
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