0人が本棚に入れています
本棚に追加
「お母さーん、今日の朝ごはんなにー?」
「おはよう、が先でしょー、あら! 前髪上げたのね」
「うん、暑くって」
前髪が中途半端に伸びてきて、うざったくなってきたこの頃。前髪を上げてピンで止めることにした。日差しが気になるけど、汗で髪が張り付くのも気持ちが悪かったのだ。
「いただきます」
「ふふっ」
「なぁにお母さん」
今日の朝ごはんはトーストだった。大きな口を開けてトーストを迎え入れる私を見て、お母さんは幸せそうに笑う。
「なんだか、最近、キレイになった?」
確かに、肌はなんだか調子がいい気がする。でも、
「なんで疑問形なのよー!」
あの額のニキビは数日前、キレイに消えていた。
教室に着くと、黒板の日直欄に名護春奈と書かれていた。ああ、もう1周したのか。席に着くと、前回休みだった相方の男子が謝りに来る。気にしないでと言ったのだが、ほとんどの仕事をやってくれた。放課後、せめて日誌だけは持っていかせてほしいと言うと、じゃあ頼むの一言と日誌を渡された。鳴海先生はまだいるだろうか。コンコンと職員室の扉を叩き、失礼します、と中を覗いた。
「お、名護」
「日誌持ってきました」
鳴海先生はまだ私服のまま自分のデスクに座っていた。机の上にはジャージが畳んで置かれている。日誌を渡すと、軽く中身を確認し、ありがとうと笑った。
「これから部活ですか?」
「ああ。あれ、また印象変わったなあ」
鳴海先生の目線が、明らかに自分の目より上にあることに気がつく。なのに、赤くなるのはいつも頬なのは何故だろう。鳴海先生は、あの日のように、とん、と人差し指で額を指す。
「消えたな」
「! はい、迷惑なだけですから、私も」
先生にとってもこの気持ちは。
やっぱりジンクスは所詮ジンクス。ニキビと一緒に消えない思いもある。鳴海先生の顎にニキビができないことを私は知っている。それでも、卒業までの数ヶ月、少しでもキレイな私で先生の記憶に残りますように。
最初のコメントを投稿しよう!