思われニキビはできなくとも

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「お母さーん、今日の朝ごはんなにー?」 「おはよう、が先でしょー、あら! 前髪上げたのね」 「うん、暑くって」 前髪が中途半端に伸びてきて、うざったくなってきたこの頃。前髪を上げてピンで止めることにした。日差しが気になるけど、汗で髪が張り付くのも気持ちが悪かったのだ。 「いただきます」 「ふふっ」 「なぁにお母さん」 今日の朝ごはんはトーストだった。大きな口を開けてトーストを迎え入れる私を見て、お母さんは幸せそうに笑う。 「なんだか、最近、キレイになった?」 確かに、肌はなんだか調子がいい気がする。でも、 「なんで疑問形なのよー!」 あの額のニキビは数日前、キレイに消えていた。 教室に着くと、黒板の日直欄に名護春奈と書かれていた。ああ、もう1周したのか。席に着くと、前回休みだった相方の男子が謝りに来る。気にしないでと言ったのだが、ほとんどの仕事をやってくれた。放課後、せめて日誌だけは持っていかせてほしいと言うと、じゃあ頼むの一言と日誌を渡された。鳴海先生はまだいるだろうか。コンコンと職員室の扉を叩き、失礼します、と中を覗いた。 「お、名護」 「日誌持ってきました」 鳴海先生はまだ私服のまま自分のデスクに座っていた。机の上にはジャージが畳んで置かれている。日誌を渡すと、軽く中身を確認し、ありがとうと笑った。 「これから部活ですか?」 「ああ。あれ、また印象変わったなあ」 鳴海先生の目線が、明らかに自分の目より上にあることに気がつく。なのに、赤くなるのはいつも頬なのは何故だろう。鳴海先生は、あの日のように、とん、と人差し指で額を指す。 「消えたな」 「! はい、迷惑なだけですから、私も」 先生にとってもこの気持ちは。 やっぱりジンクスは所詮ジンクス。ニキビと一緒に消えない思いもある。鳴海先生の顎にニキビができないことを私は知っている。それでも、卒業までの数ヶ月、少しでもキレイな私で先生の記憶に残りますように。
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