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それから数日後のことであった。娘からまた、メールが来た。最近は年に1回来るか来ないかの連絡が、今月は2回もあった。
『プレゼント、ありがとう。インスタのユーザーID ・・・・・』
相変わらず素っ気ない。だけどあの日聞けなかった「ありがとう」という言葉がある。
また忘れたらいけない、インスタグラムとやらは知っているが自分は当然やっていない。教えてくれたのだから、と男はスマホで少しだけ苦戦しながらも自分のアカウントを持った。そして娘のページを探す。丸いアイコンはイチゴのショートケーキだった。「最近始めた」と言っていた通り写真は数枚程度で、高校の卒業式、大学入学式用のスーツ、入学式といった感じだった。
高校の制服は知っていたが、大学の入学式のスーツ姿は大人っぽく、先日会った時よりずっと洗練されていた姿だった。
そして記憶に新しいあるショッピンバッグが目に入った。横にスライドすると、ラッピングされている細長いケース、そしてあの日娘が「これ」と言って譲らなかったハート型のペンダントが娘の手の平に、さらりと乗せられていた。最後の写真は、小さな白いカードだ。それは会計時に自分がこっそり店員に用意してもらったもので、『誕生日おめでとう、父より』と流れるように慌てて書いたのだ。
#19歳の幸せのプレゼント#誕生日#19歳幸せのシルバー
#父に感謝#ありがとう#初めてのアクセサリー#幸せの約束
ハッシュタグという存在は知っていた。しかしこれほどまで#の後に綴られる単語で心を打たれるとは。
もう会うこともなくなっていくのだろうとさえ、覚悟もしていたのだった。まさかの連絡から、娘に初めてのアクセサリーを贈る父になれた。
男は慣れない手つきで写真を撮る。それは慌てて買ってきた小さなイチゴのホールケーキだった。チョコレートのプレートには
『おめでとう、ありがとう
19才のしあわせ』
#19歳#誕生日おめでとう#幸せを祈る#イチゴケーキ
さすがに載せられなかったが
『愛する娘へ』
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