幸せの約束

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 19歳になる誕生日が近づいて来たある日、娘から連絡が来た。  「欲しい物がある」  短いメールだった。昨年まで誕生日は一緒に祝えなくなっても、バースデーカードに気持ちを包み送っていた。それで彼女の欲しい物を買えばよいと。  父親として娘からのリクエストは嬉しいものだが、一体何が欲しいというのだろう?大学合格時にはそれ相応の祝いを、かつての妻に送った。特待生入学ということで、学費も免除となるから、自動車の免許を取りにいけばよいかと娘にも連絡を入れた。  とにかく誕生日の前週の日曜日、6年ぶりに2人で会うこととなった。    地下鉄の改札口付近でスマホを弄っている、懐かしい横顔が見えた。  背が伸びすらりとした娘は、もうケーキを食べないのだろうと納得した。  高校入学時の制服姿の時と、あまり雰囲気は変わっていない。むしろこの年齢にしては少し野暮ったいのかもと、心配するような気持ちと共に安堵もしていた。  「久しぶり、元気だったかい?」  娘はスマホから目を離し、自分を見、頷いた。  「ところで、どこに行くのかな」  「決まってる」  娘はスタスタと迷いなく歩き始めた。地下街は多くの人で賑わっている。様々な店があり、デパートにも直結している。残念ながら並んで歩くことはなく、娘が先を歩み、男は先導されていく形となった。  やがて、アクセサリーショップが並ぶフロアに着いた。若いカップルがショーケースを笑顔で覗き込んでいる。その雰囲気に圧倒されていると、娘が袖を引いて「これ、欲しいの」と言って指をさしてきた。  そこには、ペンダントが規則正しく並び、キラキラと輝いていた。  まさかのアクセサリー!男は驚きつつも、心が浮き立つのを感じた。どれどれと、その光るものを見ると、確かに可愛らしいが思っていた以上に値段が安い。ふと隣のケースに視線を移すと、娘が示したそれより大きく輝き、値段も相応だ。  「いらっしゃいませ、ペンダントをお探しですか?」  「これ、見せてください」  店員と娘がやりとりを始めている。店員は「かしこまりました」とニコニコとしながら、もったいぶるようにケースを開ける。そしてジュエリーを置く入れ物にそれはそっと寝かされた。  小ぶりなハートモチーフで材質はシルバー、ピンク色の石がいくつか並んでいる。  「こっちはどうだい?もっと大きくて・・・」と言いかけた所で、「これが欲しいの」とぴしゃりと遮られた。  「実際にお付けになってみませんか?」  店員がそう促すも、娘は「いいです」と首を振る。  「こちらはシルバー925でロジウムコーティングされています。お石はピンクサファイヤになります。同じデザインでホワイトゴールドの物もございますよ」  シルバーよりはゴールドの方が良いだろう、男は安易にそう思い、「ゴールドのも見せてもらおうか?」と口にした。  「いいの、私、これって決めてたの。これが欲しい」  娘は父親の顔をしっかりと見て、真顔でそう言い放った。  
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