幸せの約束

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 小さなショッピングバッグを手にし、娘は相変わらず先を歩く。  19歳の誕生日プレゼントは10分もしないで購入となった。どうせならもっと良い物を、と余計なことを考えてしまう。  「お茶でもしないか?」  この年頃の女というのは、難しい。それともこの子だけが愛想がないのだろうか?ショップでも娘と同じような年頃の子は、今時の華奢な男の子と並び、メイクも映え垢抜けていた。比べてはいけないが、我が娘はほとんどメイクをしていないようだ。それもあってか、やや幼くも見える。ただ、先ほどの女の子が巧みにアイメイクをして美しさを表現していたけれど、娘の瞳は何もしなくても大きく、長い睫毛が上を向き、きらりとしていた。  「スタバ」  娘は単語しか言わないのだろうか。苦笑いした。    せっかくスタバに来たというのに、娘はアイスコーヒーでよいと言う。自分の悪い癖で、「この新作は?」と季節限定の商品を勧めてみたが、「アイスコーヒー、トールサイズ」とだけ返事をされた。  2人で向かい合って、静かにコーヒーを飲む。何とか娘から聞き出せたことは、大学ではアカペラのサークルに入り、インスタグラムを始めたということだった。  娘は時計を見、「これから友だちと会うから」と席を立つ。そしてあっという間に待ち合わせしていた場所に戻った。今日、会ってから娘の笑顔らしきものを一度も見ていない。  「じゃ」  「またいつでも連絡してくれ。そうだ、今度は美味しい物を食べよう」  「・・・・・・。覚えてないの?」  「え?何か約束・・・」  「19歳の幸せのプレゼント」  それだけ言うと娘は改札へ消えて行った。人混みですぐに見失ってしまった。   
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